気象研究ノート第228号「エルニーニョ・南方振動(ENSO)研究の現在」

熱帯太平洋の海面水温および海面気圧の変動に卓越するエルニーニョ・南方振動(El Niño-Southern Oscillation; ENSO)は,日本を含む全球の天候状態に大きな影響をもち,気象学・大気科学と海洋物理学における重要な研究テーマであり続けてきています.1982-83年に発生したエルニーニョは,当時20世紀最大と言われ,この現象を契機としてENSOの理論・観測網・予測モデルが大きく発展しました.それから約30年が経ち,大気海洋結合大循環モデル(CGCM)の性能が飛躍的に向上する一方で,ENSOに関する新しい発見や疑問が生じてきており,ENSO研究は新たなフェイズに移行しつつあります.このような背景を踏まえ,本ノートでは基本的なENSOの様子や力学の説明を交えつつ,TOGA-COARE以降のENSO研究に重点をおいて,各関連分野で造詣の深い方々に執筆をお願いしました.ENSO研究のはじまりからすべてをまとめることは不可能ですので,近年の成果から将来の発展につながるように,という意図で題目も「ENSO研究の現在」としています.ENSOに関しては一般向けのかみ砕いた解説書はありますが,最先端の研究成果までを網羅する進んだ内容の日本語文献が存在しませんでした.このことも本ノートの編集を思いたった大きな要因です.第1部は,ENSOの観測,力学,およびCGCMによるシミュレーションと予測に関するレビューです.第2部では,視野を広げて低緯度の気候システムの諸現象(モンスーン,大気擾乱活動,十年規模変動など)とENSOのかかわりを扱っています.第3部では,ENSOの及ぼす影響や長い時間スケールにおける古環境変動との関連などのトピックをまとめています.各章において,これまでの成果とその意義が解説され,今後の課題についても述べられています.本ノートが,気象学・海洋物理学を学ぶ学生にとってだけでなく,広くENSO研究の現状を俯瞰したい人にとって助けとなり,これを拠り所として気候システムの自然変動に対するさらなる理解や予測の進展がもたらされれば望外の喜びです.

【目次】

  • 第1章TOGA-計画が開いた世界・・・・・・・・・・・・・・・住明正
  • 第2章ENSOの観測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・升本順夫・安藤健太郎
  • 第3章ENSOの理論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・和方吉信
  • 第4章気候モデルによるENSOのシミュレーション・・・・・・渡部雅浩
  • 第5章ENSOの予測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・石井正好
  • 第6章新しいエルニーニョ・・・・・・・・・山形俊男・東塚知己・SwadhinK.Behera
  • 第7章ENSOと熱帯大気海洋系変動・・・・・・小坂優・近本喜光・尾形友道・謝尚平
  • 第8章大気擾乱とENSO・・・・・・・・・・・・・・・・・・高藪縁・清木亜矢子
  • 第9章ENSOとモンスーン・・・・・・・・・・・・・・・・・植田宏昭
  • 第10章ENSOと十年規模変動・・・・・・・・・・・・・・・・望月崇
  • 第11章ENSO-NAOのリンクについて・・・・・・・・・・・・浮田甚郎・本田明治
  • 第12章ENSOと日本の天候・・・・・・・・・・・・・・・・・前田修平
  • 第13章ENSOと古気候研究・・・・・・・・・・・・・・・・・横山祐典・鈴木淳

【編集】渡部雅浩・木本昌秀
第228号B5判236ページ、2013年10月28日発行
【価格】会員:3,200円、会員外:4,600円

気象研究ノート編集委員会