第14回航空気象研究会開催のお知らせ


航空機の運航に影響を及ぼす気象の観測,予報,情報提供などについて,気象学会レベルで広く交流し研究を促進するため,2006年3月に日本気象学会の研究会の1つとして「航空気象研究連絡会」が設置されました.今般,同連絡会主催による第14回目の研究会を下記の通り開催します.

日時:2020年2月7日(金) 13時30分〜18時00分

場所:気象庁講堂(東京都千代田区大手町1-3-4 気象庁2F)
入場無料.駐車場はありませんので,公共交通機関をご利用願います.

<発表題目(発表予定順)>
1.運航における気象現象の「迂回」について
浦健一(日本航空)

航空機の運航においては,特殊気象の遭遇とその影響を避けるべく,種々の気象情報を活用しながら必要に応じて経路の迂回を実施している.台風が存在するときに飛行計画の段階で運航管理者が関与して迂回経路を予め作成するケースや,火山灰の拡散により飛行中に経路変更を実施して迂回するケース,そしてパイロット判断により管制官とのやり取りを行いながら積乱雲を迂回するケースなど,原因となる気象現象の空間および時間スケールによって,様々な状況が発生する.
本発表では,こうした気象現象の迂回の現状を踏まえながら,特に被雷やウィンドシアーのような離着陸に影響を及ぼす気象現象がターミナル空域に発生している場合の課題について紹介する.

2.二重偏波レーダーによる降水粒子判別を用いた雷雲の特徴
林修吾,梅原章仁(気象研究所),南雲信宏(気象庁観測部)

気象庁LIDENによる雷観測および羽田・成田空港の二重偏波空港気象ドップラーレーダー(DRAW)による積乱雲の観測を用いて,雷雲が持つ特徴をレーダー観測で把握することを目的とする.偏波レーダー情報を用いた粒子判別結果から雷雲の特性を把握することは,雷の直前予測に利用可能な新たな知見を提供し,航空機を含む交通機関の被害の低減に資すると考えられる.

3.2019年の特異な落雷事例と発雷の特性について
原岡秀樹(フランクリン・ジャパン)

当社は,独自観測した雷情報の提供を業務の柱としており,勤務中は全国各地の落雷を監視しているが,稀に興味深い落雷や雲放電を観測することがある.今回は,昨年本研究会で紹介した東京湾周辺でのレーダーエコー強度が強くない雲からの発雷の他に,正極性の落雷及び台風周辺での発雷などについて,常に安全を最優先されている航空気象関係者の皆様に紹介し,多角的な観点から御助言をいただきたい.

4.LMAによる関東における3次元トータル雷観測
櫻井南海子,清水慎吾,宇治靖,岩波越(防災科研)
P.R. Krehbiel,W. Rison,D. Rodeheffer(ニューメキシコ鉱物工科大)

防災科研では,Lightning Mapping Array (LMA)と呼ばれる雷3次元観測システムネットワークを首都圏に構築し,連続観測を行っている.この測器の特徴は,落雷および雲放電(トータル雷)をフラッシュ単位で高精度に捕捉し,雷放電の3次元放電経路を可視化できる点である.雲放電は落雷よりはるかに多く発生し,また,雷雲の一生では雲放電が落雷の発生より先行してしばしば発生するため,雲放電情報は落雷予測や雷雲検知に役立つと考えられる.
本発表では,LMAによってこれまでに観測された雷事例を紹介するとともに,トータル雷を高い捕捉率で3次元的に観測できるLMAデータの航空機運航等への利用可能性について議論させて頂きたい.

5.航空管制の環境変化に対応した航空交通管理(ATM)向け気象情報
石坂和之,池田倫子,大溝英哉,宮腰紀之(気象庁予報部)

日本上空を飛行する航空機数の増加に伴い,国内空域の再編をはじめとした航空管制の環境が変化しつつある.
それに対応し,航空交通気象センターは,航空交通管理センターに提供しているATM向け気象情報の変更を行っている.
ATM向け気象情報の現状を紹介する.

6.関東平野に発生する沿岸前線のMSM予報バイアスに関する解析
鈴木健斗,岩崎俊樹,山崎剛(東北大学理学研究科)

沿岸前線は温かい海からの暖気と内陸の寒気の間に形成される局地前線であり,航空機の離発着などにおいて,正確な前線位置の予報が重要な現象である.気象庁メソスケールモデル(5kmメッシュ)は,関東平野に発生する沿岸前線を実況より内陸側に予報する傾向があることが指摘されている.本研究では,2015-2018年に発生した沿岸前線に対する統計解析を行い,予報時間が5時間程度より経過すると,降水の有無にかかわらず前線が実況より内陸側にずれるバイアスが生じることを明らかにした.その要因を調べるために数値モデルによる感度実験を行った結果,バイアスは主に数値モデルの山岳が実際より低いことが原因だと分かった.解像度を2キロ,1キロにすることで,前線位置の誤差距離は27%,35%平均して減少し,またモデル地形に山の稜線高さを維持するEnvelope Orographyを導入した場合は予報誤差がほぼ解消した.

7.霧による気象状態悪化の特徴
河野貴行,菅原広史(防衛大学校地球海洋学科)

青森県の三沢飛行場では,他地域に比べ夏季における霧による気象状態の悪化が起こりやすく,航空機の運航の大きな障害となっている.航空気象において,気象の急変に対応するためには悪化の兆候を早期に察知し,十分なリードタイムをもって操縦者に伝達することが重要であるが,霧の場合,気象状態の変動が大きく,その影響が数時間から数日に及ぶ場合もあり,リードタイムを確保することは難しい.本研究では,霧による気象状態悪化の性質解明を目的として,気象観測値をもとに統計解析を行い,霧による気象状態悪化の特徴について報告する.

8.航空機に与える低層風の情報提供システムSOLWINとPCSの融合に関する共同研究
粂内健太郎(全日本空輸)

今般PCSに,宇宙航空研究開発機構(以下,JAXA)と共同研究を結ぶことで,JAXAが研究開発を進めてきた低層風情報提供システム(以下,SOLWIN)からの情報を組み合わせた運用について検証を行った.これにより,これまでの着陸および進入中の航空機の挙動の予測に加え,低高度のシアについても一元的に把握できるようになり,PCSをベースにした着陸進入における将来的な安全性向上につながる付加価値の拡張も期待できるものであった.
(また,共同研究では予測に新たなアルゴリズムを開発し,従来の説明変数には含まれなかった低高度のシアを導入した.)

9.成田国際空港における水平ロール渦に起因する低層ウインドシア
吉野勝美

2013年と2014年の当研究会において,着陸機の飛行記録とドップラーライダーが観測したドップラー速度データによる当該現象の解析結果を報告した.今回は,速度幅データを加えた更なる解析によって得られた水平ロール渦(HRV)の詳細な構造とそれに起因する乱気流を伴った低層ウインドシア(LLWS)の特徴について報告する.
解析によると,HRVは南西の強風と下層ジェットが対流混合層上端付近に位置する環境場において,水平スケール(回転の向きが互いに反対方向の一対の渦の幅)が約800m,鉛直スケールが約500m,渦の回転軸が一般流とほぼ平行な状態で成田空港の位置する下総台地一帯の大気境界層に幾筋も出現している.地表付近で発散するHRVの回転軸に直交する流れは,滑走路末端と接地点の間の狭い空間(約400m)でLLWSを引き起こしている.HRVの下降流は下層ジェットの運動量を下方に輸送して対流混合層下部に幅約200mのバンド状の強風域を形成し,この強風域の地表付近(地上約50m以下)には顕著な乱流域が現れている.このHRVの構造は,着陸機が滑走路末端通過後に乱気流を伴った強い横風(南西風)が弱まると同時に追い風成分に遭遇する可能性を示唆している.

10.成田空港で強風時に発生する水平ロール構造のラージ・エディ・シミュレーション
伊藤純至,新野宏(東京大学大気海洋研究所),吉野勝美

空港に設置されたドップラーライダーは,大気境界層内で,主風向にほぼ平行な軸を持ち,数100mの間隔で並んだロール構造を観測しており,これらの構造に伴う大きな水平風速と乱流強度の変動が指摘されている(Yoshino 2019,気象集誌).しかしながら,観測データの解析からのみでは,水平ロール構造の生成機構や,これに伴う風速や乱流の変動機構を明らかにすることは難しかった.
本研究では,水平解像度を高めた領域気象モデル(気象庁非静力学モデル,JMANHM)をラージ・エディ・シミュレーション(LES)として用い,当日の大気境界層の乱流構造を再現して,水平ロール構造の実態や生成機構を明らかにする.計算は水平解像度1kmのOuter Runの中に水平解像度100mのLES Runをネストして行い,計算領域の中心を成田空港とした.Outer Runでは,関東沖の下層で卓越する南西風が東京湾で加速され,成田空港へ到達する環境場が再現された.この強い南西風により,大気境界層には強い鉛直シアが存在していた.また晴天であったため,日射で加熱された地表からの顕熱フラックスにより,陸面を吹走するにつれて,対流混合層が徐々に発達していた.LES Runでは,大気下層に水平ロール構造が再現され,滑走路に平行な方向の水平速度成分に10ms-1程度の周期的な変動が地面付近に生じている.また,シミュレーション結果から生成した疑似的なドップラー速度はライダー観測でみられたパターンとよく合致する.

11.日本の南を通過した低気圧と乱気流 〜2019年10月29日の事例〜
加藤真悟(気象庁予報部)

2019年10月29日は,日本の南を低気圧や前線が通過し,太平洋側を中心に雨となった.
地上では特に大雨となることはなかったが,上空では九州〜北海道の広い範囲でModerate〜Severeの強度の乱気流が,多数報告された.
乱気流の発生場所は,@前線面,A低気圧や前線の北側に広がる厚い雲域の雲頂付近,B西から大気中層に流れ込む乾燥域の先端部分に大別できた.
これは,日本の南を低気圧等が通過する際に発生する乱気流の特徴を良く表していた.
実際の予報作業において着目するポイントと合わせて,本現象の構造を紹介する.

12.航空機搭載型ライダーを用いた機体動揺低減技術の研究開発
菊地亮太(宇宙航空研究開発機構)

JAXAでは晴天乱気流を検知できる,航空機搭載用のドップラーライダーを開発し,パイロットへ乱気流情報を提供する「乱気流事故防止システム」を飛行実証してきました.
ドップラーライダーは,前方にレーザー光を照射し,気流と同様に運動する空気中の小さな粒子(エアロゾル粒子)に当たった光の散乱を計測することができ,その計測データから,計算によりエアロゾル粒子の動きを知ることで気流を計測します.
検知した乱気流情報と航空機のオートパイロットとを組み合わせ,乱気流による急な機体の揺れを抑える「機体動揺低減技術」の開発を進めており,本講演では開発状況について情報提供する.


問い合わせ先:植田亨(t-ueda@met.kishou.go.jp),宮腰紀之(miyakoshi@met.kishou.go.jp)
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