第10回航空気象研究会の開催報告

(天気,63巻11号にも掲載しています)

標記研究会が,2016年2月9日13時30分から18時まで,気象庁講堂において開催された.本研究会は,航空機の安全で効率的な運航にとって不可欠な気象の観測や予報,情報提供などについて,気象学会レベルで関係者が広く交流し,研究を促進するために,2006年3月に日本気象学会のもとに「航空気象研究連絡会」が設置されたものである.今回は,「近年の航空気象サービス」についての特別講演に引き続いて,9題の発表が行われ,民間航空,研究機関,気象事業者および気象予報士,防衛省および気象庁関係者など,約100名の人々が一堂に会した.  研究会は,古川委員長の挨拶に引き続いて,事務局の八木および塩澤の司会の下に進められた. 今回は10回目の研究会で,この場を通じて航空気象分野の人々が広く交流してきており,今後より一層の発展を期待している                (文責;古川武彦)
(2015年度航空気象研究連絡会; 所属は当時のもの)
古川 武彦(気象コンパス)
八木 勝昌(気象庁予報部)
塩澤 定道(気象庁予報部)
飯田 和彦(気象庁観測部)
藤田 英治(気象庁観測部)
堀川 道広(東京航空地方気象台)
山岸 正雪(成田航空地方気象台)
坂本 圭 (全日空)
浦 健一 (日本航空)
吉野 勝美
小野寺三朗(桜美林大学)
藤井 貫志(防衛省)

(研究発表題目:発表者および要旨):
特別講演:近年の航空気象サービス
古川武彦(気象コンパス)

 航空気象研究連絡会が設置されてから10年の節目として,設置後からその任を担ってきた古川委員長が,この10年を振り返り,国内外の航空気象サービスの変遷や現在の航空需要・情勢における航空気象サービスの概要と今後の課題等について,包括的な講演を行った.

1.ひまわり8号について
吉崎徳人(気象庁観測部)

 2015年7月7日,気象庁は新しい静止気象衛星ひまわり8号の運用を開始した.ひまわり8号は,ひまわり7号に比べて,水平分解能が2倍,フルディスク(衛星から見える地球の全範囲)の観測時間が約30分から10分,観測波長帯が5バンドから16バンドになるなど,観測機能が大幅に強化されている.また,特定の領域をさらに高頻度に観測することも可能となっている(例:日本域を2.5分毎).このような観測機能の強化によって,これまでより詳細に気象現象を把握することができるようになった.ひまわり8号の観測データは画像として利用されるほか,観測データから作成する風向風速,温度,雲情報などの物理量プロダクトが数値予報など様々な用途に利用される.発表では,これらの概要について紹介した.

2.シーディングの手法を用いた降水抑制シミュレーション
林 浩平(防衛大学校地球海洋学科)

 航空機および飛行場の運用に対し,降雪が与える影響は大きい.本研究では,人工降雨(シーディング)により降雪量が軽減可能であることを示す目的で,雪雲に対するシーディングの数値実験を行なった.日本海の雪雲を対象とした数値実験の結果,シーディング位置の風下側に設定した目標地点周辺で降水量が減少した.降水強度の時間変化についての解析から,目標領域で降水量が減少したのは,シーディングによって降水粒子が目標領域到達前に落下したためであると考えられ,今後,目標領域内における降雪減少量に関する定量的解析を行なっていく予定である.発表では,これらの概要について報告した.

3.島嶼群における台風接近時の最大瞬間風速に関する統計的研究
鈴木将通(防衛大学校地球海洋学科)

 台風接近時における強風害については,台風情報で中心付近の最大風速から,地域ごと想定される災害規模などを示し注意警戒を呼び掛けている.しかし,強風害の発生には予測を行っていない最大瞬間風速が大きく影響していることがこれまでに多くの調査で報告されている.最大瞬間風速は,地域ごとの地形,植生及び建築物の影響を受けるため予測が難しく,風向別で見てもばらつきが大きい.また,観測地点についても雨量などに比べて観測網が粗く,実況を十分に把握できないなどの課題があった.しかし,2008年3月26日より,アメダスデータ等統合処理システムの運用開始に伴って,最大瞬間風速などが統計項目に追加され,アメダス地点における突風率についても算出できるようになった.地点ごとに予測される最大風速と風向別の突風率が分かれば,最大瞬間風速の見積もりは可能である.本研究では,琉球諸島及び薩南諸島の島嶼群に接近する台風中心付近の最大風速から,34観測地点ごとの地形等の影響による風の減衰を考慮した最大風速を求め,この最大風速から突風率を求めた.そして,この方法により,2015年に島嶼群に接近した台風中心付近の最大風速から最大瞬間風速を求め,その予測精度の検証を試みた結果,一定の条件下では精度の良い最大瞬間風速を推定できることが明らかになった.また,更なる統計値の収集分析により,推定値の精度向上の可能性を示唆した.発表では,これら概要について報告した.

4.航空機の運航に影響する気象現象とその対策〜ウィンドシアーについて〜
浦 健一(日本航空株式会社)

 航空機の運航に際しては,様々な気象現象による影響を受ける.台風や発達した低気圧などのメソスケール現象だけでなく,これに伴って発生する強風・横風や雷雨,またタービュランスやウィンドシアーなどの時間的・空間的スケールの小さい現象によって,特に離着陸時に大きな影響が発生しやすい.そして,このようなスケールの小さい現象こそ,安全運航に対する大きなハザードとなっているのが現状である. 発表では,特に運航の安全への影響が大きい「ウィンドシアー」に焦点をあて,事例を紹介するとともにウィンドシアーが予測される場合や実際に発生した場合における運航管理者とパイロットによる気象情報の利用状況と対応を紹介した.

5.暖気移流と風のシアーで発生するトランスバースバンド
庄司桂一郎(気象庁予報部)

 トランスバースバンド(以下TVB)は,ケルビン-ヘルムホルツ波(以下K-H波)が可視化したものであるといわれ,空域予報では乱気流の目安として注目される. 一方,Dixon等(Dixon et al. 2000)は,TVBが“対流ロール雲”で構成されていると述べている.発表では,ジェット核の赤道側に広がる中立層内で,TVBが発生した事例について,TVBが“対流ロール雲”で構成されていることを確認すると共に,TVBの厚さと乱気流強度の関係について調査を行い報告した.

6.インドネシア・エアアジア航空機ジャワ海墜落事故当時の気象状況について
吉野勝美

 2014年12月28日2318UTC(現地時刻0618LST)にインドネシア・エアアジア航空機が操縦系統の故障が原因(インドネシア当局の最終事故調査報告書)でジャワ海に墜落した.当該機は事故直前に経路上の積乱雲を回避すべく,横方向へ15マイル (1マイル=1852m) の迂回と高度32000フィート (1フィート=0.3m) から38000フィートへの変更を管制機関に要求していたことから,当時の気象状況について主に気象衛星の画像を用いて積乱雲の発生状況を解析した. 当時,積乱雲はジャワ海の海面上に密集して現れている一方で,それを取り囲むジャワ島,スマトラ島,カリマンタン島の陸面上にはほとんど分布していなかった.また,事故発生場所近隣のゾンデ観測によると700hPa以下で約35kt (1kt=0.51m/s)のモンスーン期の西風が卓越していた. この積乱雲の分布は,西部太平洋熱帯域(海洋大陸)の雨季に現れる対流活動の日変化(Nitta and Sekine 1994)と密接に関係しているものと考えられる. 一方, 航空機性能を含めた航空機運航システム全般の高度化や運賃の低廉化により,この地域も含めたアジア全域でも航空交通量が急速に増加しつつあり,飛行中悪天域回避の自由度に影響が及ぶ可能性が思慮される. 発表では,このような情勢の下で当該事故発生当時の気象状況について報告した.

7.Aviation Weather Force (略称:AWF)を用いた乱気流等の航空ハザード予測の試み
道本光一郎ほか(ウェザー・サービス(株)), 芦刈貴義ほか(ジェットスター・ジャパン(株))

 ウェザー・サービス(株)は,AWFという航空ハザード全般を予測する航空気象予測モデルを開発し,民間航空会社へ情報を提供している.今発表では,実際にエアラインで飛行している民間航空会社から得られるフィードバックを活用する,すなわち,雷電・着氷・乱気流のいわゆる航空ハザードのレポートをもとにして,航空気象予測モデル(AWF)が予測したハザードエリアやその現象の強弱等が当該航空会社からのフィードバックと一致したかどうかの検証結果などを報告した.

8.気象情報の航空機運航への利用について
望月昌夫(全日本空輸株式会社)

 気象情報は,現象に直接遭遇するパイロットや運航を統括する運航管理者,空港の運航支援者が利用している.全日空の運航管理部門であるオペレーションマネージメントセンター(OMC)では日本国内線に加え,海外へ飛行する国際線についても管理しているため,日本のみならず,全世界の天候に気を配りながら業務を実施している.天候が安定していれば標準的な飛行計画作成を行い,その後は予想した天候と現状に差異が無いか,運航スケジュールの定時性に影響が発生していないか等,フライトの監視が主体となるが,空港や航空路上に悪天が発生し運航に影響を及ぼす際には,運航への影響を最小限にすべく考慮すべき要件が非常に多く膨れ上がり,時として安全阻害要件への連続的な対処も必要となる.今発表では,運航全体に与える影響を俯瞰し,気象(悪天現象)と運航との関連を報告した.

9.航空自衛隊における飛行障害現象予測の現状と今後について
宇河拓未,棚橋理恵子,清水 暁(航空自衛隊航空気象群)

 航空自衛隊では,国内外の運航や各種任務,飛行訓練を行う航空機に対して,雷・着氷・乱気流などの気象現象を予報することで,これらの飛行障害現象を回避しながら任務を遂行している.飛行障害現象は航空機の運航に多大な影響を及ぼすため,極めて重要である.乱気流に関して,第7,8回航空気象研究会でウィンドプロファイラのスペクトル幅を用いた自衛隊機における乱気流検出事例について報告したが,その予測方法や現況把握は未だ研究段階にある. 本発表では,航空自衛隊が行う飛行障害現象予想及びその提供方法のほか,乱気流の最新の検証事例を気象状況などと合わせて報告した.

参考文献

Dixon, R.S., K.A. Browning and G.J. Shutts, 2000: The mystery of striated cloud heads in satellite imagery. Atmos. Sci. Lett. , 1, 1-13. Nitta, T. and S. Sekine, 1994 : Diurnal variation of convective activity over the tropical western Pacific. J. Meteor. Soc. Japan, 72, 627-641.