第15回航空気象研究会の開催報告

(天気,69巻3号にも掲載しています)
 標記研究会が2021年2月5日13時30分から16時30分まで,初のオンラインにおいて開催された.本年は吉野氏からの「先進の気象観測技術導入による効果について」の特別講演に続き,3機関から3題の講演発表と質疑応答が熱心に行われた.今回の参加者は30機関以上から68名の参加があった.
 今回の研究会は,ドップラーレーダーやドップラーライダーによるLLWS(Low Level Wind Shear)の実態や構造に関する知見の紹介,次世代ウィンドプロファイラの実用化に向けた実証実験の紹介と評価,ドローンによる霧や低層雲の計測に関する事例紹介,二重偏波レーダーを利用したダウンバースト発生前兆についての調査結果の報告等があり,いずれも今後の航空機の安全運航の向上に資するものであった.

【研究発表題目(所属は当時のもの)】
1.特別講演
  先進の気象観測技術導入による効果について
   −ドップラーレーダーとドップラーライダーの観測成果から−

吉野勝美

 我が国の航空気象分野では,ドップラーレーダーによるリアルタイムLLWS(Low Level Wind Shear)の検出と警報の発出,水蒸気CHの放射計を搭載した気象衛星の観測による火山灰の検出とVAA(Volcanic Ash Advisory)の発出,ドップラーライダーによる非降水時の空港周辺の微細な流れの監視とLLWSの検出等々,世界的にも先端技術を早期に導入し運用してきた.これによって,激しい対流現象や前線の通過時のLLWSの実態を詳細に理解することができた.また,ドップラーライダーによって以前航空界で認識されなかった大気境界層の組織的な流れの構造を捉えることができつつある.このような知見を運航者側で理解することによって,事故やインシデントを未然に防止するための運航判断に寄与できており,また更なる導入効果が期待される.

2.次世代ウィンドプロファイラの実用化に向けたアダプティブクラッタ抑圧の実証評価
山本真之(情報通信研究機構)      
西村耕司(極地研究所)         
川村誠治(情報通信研究機構)      
今井克之,斎藤浩二,山口博史(住友電設)

 ウィンドプロファイラ(WPR)は,晴天域における風速の高度プロファイルを優れた時間・高度分解能で測定できる.しかし,WPRには,不要エコー(クラッタ)が受信信号に混入すると,風速測定データの品質が低下する問題がある.アダプティブクラッタ抑圧(ACS)は,複数のサブアレイアンテナ(サブアレイ)と適用信号処理を用いて受信アンテナのビームパターンを動的に制御することにより,クラッタを低減する技術である.情報通信研究機構が有する1.3GHz帯WPR(通称LQ-13)に,主アンテナを構成する13台のサブアレイとクラッタのみを検出するクラッタ抑圧用サブアレイを用いたACS機能が付加された.また,気象庁の協力のもと,クラッタ抑圧用サブアレイを気象庁の局地的気象監視システム(WINDAS)用1.3GHz帯WPRに付加したACSの実証実験が実施された.発表では,LQ-13及び気象庁WINDAS用1.3GHz帯WPRを用いたACSの実証評価につき,報告した.

3.ドローンによる低層雲の観測
菅原広史(防衛大学校地球海洋学科)
河野貴行(防衛省航空自衛隊)   

 ドローンは強力な観測プラットフォームになりつつあるが,現在の法規制下ではオペレーターが目視できる範囲での飛行が安全上の原則となっている.このため,雲中の計測は困難である.しかしながら,例えば沿岸部の飛行場に海から進入してくる霧・低層雲など,ドローンが活躍できそうな雲の計測のニーズは多々ある.安全性を確保したうえでドローンによる低層雲の計測を行った事例を報告した.

4.二重偏波レーダーの降水粒子判別結果から考察するダウンバースト発生前兆
梅原章仁(気象研究所)        
南雲信宏,山内 洋(気象庁大気海洋部)

 二重偏波レーダーは,水平・垂直,二つの偏波を用いた観測により,散乱体の形状や分布の特性を捉えることができる.これにより,降水システム内に分布する降水粒子種別を推定することができる.
 航空機の安全運航にとって脅威となるダウンバーストは,近年の二重偏波レーダーによる観測的研究により,雹による下降流の励起・強化が重要なことや,雹の生成に先行して,積乱雲内部にZDRカラム(上昇流域の雨滴に対応し,0度高度以上にまで伸びる柱状の領域)が存在すること,が示されつつあり,降水粒子の時空間変化を詳細に調査することで,前兆を把握できる可能性がある.
 本講演では,ダウンバーストの前兆把握を目的に,二重偏波レーダーによる降水粒子判別手法の結果(以下,単に降水粒子)から,降水粒子の鉛直存在率(1km格子内の全仰角における,全降水粒子ビン数に対する対象粒子の粒子ビン数の割合と定義)を計算し,ダウンバースト発生前後の各降水粒子の時空間変化を調査した結果を発表した.その中で,ダウンバースト発生直前に,雹の鉛直存在率が急増していたこと,それに先行して,0℃高度以上での液相及び混合相の降水粒子(上昇流を示唆する粒子)の鉛直存在率が増加していたこと,同一鉛直カラム内において,上昇流を示唆する降水粒子の判別点数より,雹の判別点数が多くなった直後にダウンバーストが発生したこと,をそれぞれ示した.
 今回の結果は,典型的な1事例の事例解析から得られたものであり,一般性が乏しい.今後,ダウンバーストに至らなかった熱雷事例を含め,解析事例数を増やすことで,二重偏波レーダーを利用したダウンバースト発生前兆の指標化に向けた調査を進めていきたい.