第2回航空気象研究会の開催報告

(天気,55巻9号,767-770にも掲載しています)

 標記研究会が,2008年2月29日午後2時から6時まで,気象庁大会議室において開催された.本研究会は,航空機の安全で効率的な運航にとって不可欠な気象の観測や予報,情報提供などについて,気象学会レベルで関係者が広く交流し,研究を促進するために,2006年3月に日本気象学会のもとに「航空気象研究連絡会」が設置され,その活動として,昨年に引き続いて今回の研究会に到ったものである.研究発表は別記のように11題であった.また参加者は約130名で,民間航空(22),国内研究機関(9),気象事業者(7),大学生(8),メーカー(9),防衛省関係者(21),気象庁関係者(30),日本気象予報士会(9),日本操縦士協会,マスコミ,米国関係者など,航空に係わる種々の分野の人々が一堂に会した(第1図).
 研究発表は,古川委員長の挨拶に引き続いて,運営委員の土田および木俣の司会の下に進められた.講演は,冒頭のTom Fahey氏による航空気象サービスの歴史的なレビューから,乱気流の観測および予測,航空機の被雷防止,航空気象プロダクト,ドップラーライダーによる観測,雲底高度,機上観測,中東の気象特性などで,その要旨を別記した.今回も分刻みの進行を余儀なくされ,討論の時間が十分とれなかったが,参加者も共有できる有益な幾つかの質問がなされた.
 冒頭のTom氏による特別講演は英語であったが,明瞭なスピーチと共通の航空用語のせいもあって,聴衆にも違和感はなかったようだ.米国から,遠路来日されたTom氏および通訳をされた中田氏に対して,感謝を申しあげる.これまで2回の研究会を通じて,航空気象に関係する種々の分野の人々が集う場が認知されつつあり,さらに発展する機運を感じた.
 なお,第3回の研究会を来年2月20日に開催する予定であり,より広範な分野の関係者の結集を期待したい.ご意見や要望を寄せて頂ければ幸いである.(文責:古川武彦)

(2007年度航空気象研究会運営委員会)
古川 武彦(気象コンパス)
土田 信一(気象庁航空予報室)
赤木 万哲(気象庁航空予報室)
赤枝 健治(気象庁観測課)
木俣 昌久(気象庁航空気象観測室)
井上 卓 (気象庁航空気象観測室)
岩倉 晋 (成田航空地方気象台)
山下 芳雄 (東京航空地方気象台)
小野寺三朗((株)日本航空)
吉野 勝美((株)全日空)
原岡 秀樹 (防衛省航空気象群)
紫村 孝嗣(防衛省航空気象群)
(連絡先) takefuru@eos.ocn.ne.jp  古川

(研究発表題目:発表者および要旨)
1. 特別講演 航空気象---ノースウェスト航空の取り組み---
トーマス フェイヒー(ノースウェスト航空気象課長)

 ノースウェスト航空(NWA)の気象に対する取り組みを紹介する機会を与えて頂いた気象学会に対しノースウェスト航空を代表し深甚なる感謝の意を表すると共にまた個人としても大変光栄に感じている.
 講演では民間航空運航の視点から先ず航空気象の歴史を概説した.米国民間航空に於ける最初の気象部門は1927年にパンアメリカン航空によって設立された.ノースウェスト航空は1938年,米国ワシントン州スポーケンに於いて気象部門を初めて立ち上げた.これは1952年の段階では米国で8番目である.気象部門を持つ航空会社の数は1940年代後半には最大16,17社あったがその後減少し始めた.
 NWAは1968年10月,乱気流プロット方式(Turbulence Plot System=TP)の正式運用を開始した.過去40年の間に当初の晴天乱気流,激しい雷雨,低高度ウインシアーに加え現在は火山灰にまでその対象が拡大されている.またTPの作業自体も当初すべて手作業で行われていたのが,現在では実況,予想天気図等の自動作成・配信・画像表示が行われる等,業務内容も拡大発展を遂げている.
 さらに航空業界に於ける航空気象の役割,及び,現在のNWAに於ける航空気象の応用例を多くの時間を割いて紹介した.
 NWAの気象課はシステムオペレーションコントロール(System Operations Control=SOC)内にある.日々の運航を阻害する2大要因は悪天気象と航空機の不具合である.NWA気象課には職員が22名在籍し,毎日11シフトの交代制で4つの予報デスクをカバーしている.NWAだけでなく提携関係にある会社及びスカイチーム所属の航空会社に対しても気象予報を提供している.気象課内で使用されている自動予報作成ツールの多くは内部の気象課員によって社内開発されたものである.NWA社内の気象課員のみならず提携関係会社,スカイチーム各社に対しても航空気象教育を実施している.
 NWA社気象サービスによりもたらされる経済的効果について具体的に解説し,効率と安全に取り組むための新しいサービスも多数紹介した.
 気象情報に関する要望についても言及した.NWAの気象課の立場からは,空港ドップラーレーダーで測定されたウィンドシア情報の配信,及び日本国内の民間航空機による観測結果の入手を切望している.
 最後に運航の安全と効率に役立っている地上及び上空に関するNWA社の気象プロダクトをひととおり紹介しNWA社気象部門の果たす役割と責任を総括しプレゼンテーションを終了した.


2. 2007年10月16日に10000ft前後で多発した乱気流
堀川道広,儘田裕司,鳥井克彦(東京航空地方気象台)

 2007年10月16日,房総半島上空10000 ft(1ft=0.3048m)付近でMOD TURB(並の乱気流)のPIREP(航空機観測)が多数入電した事例について報告した.8時30分頃には成田付近上空でMOD TO SEV TURB(並から強い乱気流)が報告されている.この日は,南海上に拡がる雲域の北の端が関東地方南部にかかり,レーダーエコーは散在している程度であった.勝浦ウィンドプロファイラーの観測によれば,6000ft以下で北東風,12000ft以上では南西風50 kt(1kt=0.5144m/s)以上となっており,10000ft付近の高度で大きい鉛直シアーが観測され,終日同じような状況が長時間続いた.PIREPによるMOD TURB以上の乱気流は,勝浦ウィンドプロファイラーの鉛直シアーおよそ16kt/1000ft以上に対応していた.非静力学の2kmモデルでは,ウィンドプロファイラーと同程度の大きい鉛直シアーが予想されたことから,中下層における乱気流域の予想には数値モデルが有効であると考える.


3. 航空機被雷を防止するための航空気象予報上の一考察
道本光一郎(防衛省航空気象群)

 2007年11月17日21時半頃に北海道新千歳空港を離着陸した民航機2機が相次いで被雷し,機体等の損傷が出た旨の新聞報道がなされた(産経新聞2007年11月18日朝刊).
 従来から,我々は小松空港周辺の冬季雷の研究を通じて,同空港周辺における航空機被雷について,気象的及び電気的なデータを用いた被雷回避のための情報を得ることができないかという観点からの解析研究を継続して実施している.
 今回は,最新の被雷事例の紹介及び過去の解析結果等を通じて,航空気象予報という切り口から被雷回避のための予測情報の出し方等について議論した.


4. 気象庁における航空気象予報プロダクトの作成について
三崎保(気象庁予報部)

 気象庁では,2007年3月から従前の「国内悪天予想図(FBJP)」に加え,新たに「国内悪天解析図(ABJP)・国内悪天実況図(UBJP)」の提供を開始した.国内悪天予想図は,主に運航計画に資するものとして,提供からおよそ6時間後の国内及びその周辺の地上からおよそ200hPa(39000ft)までの高度について,雷電や乱気流等の悪天域やジェット軸及び地上気圧系の動き並びに着氷可能性域の目安として5000ftと10000ftの0℃の等温線を予想して,毎日6時間毎に提供しているが,ここでは,特に,乱気流や雷電等の悪天域に焦点を当てて,その作成・予測手法を紹介した.一方,新規の「国内悪天実況図・国内悪天解析図」は,パイロットの即時的な利用に資するものとして,悪天域等の実況図を毎時間,またそれらの悪天域に対するコメントを付したものを3時間毎に,実況時刻から出来るだけ短時間内に提供しているが,それらの概要と解析図の解析手法等を報告した.


5. 乱気流観測・予測技術の開発
井之口浜木,遠藤栄一,及川博史,田中久理,稲垣敏治(宇宙航空研究開発機構(JAXA)運航・安全技術チーム)

 近年わが国では航空機が墜落するような大事故は減少の傾向にあるものの乱気流に遭遇して機体が揺れ,死傷者が発生する事故は増加の傾向にあり,乱気流への対策が求められている.宇宙航空研究開発機構(JAXA)では乱気流を主因とする事故に対処するため乱気流事故防止技術の開発を進めており,乱気流による風の流れを直接観測する装置として航空機搭載用風計測ライダーの開発,そのライダーデータを使って乱気流を検出する乱気流検出技術の開発,前方に乱気流が検出された場合に機体の動きを決める機体制御技術の開発,また気象情報として事前に乱気流の発生しやすい時間・場所を呈示する乱気流域予測技術の開発を行なっている.
 今回の報告では,JAXAの航空機搭載用ライダー開発の経緯,平成18年度に試作した低高度で3NM(1NM=1852m)の計測範囲を持つライダーを小型機に搭載し,北海道における飛行試験で検出した風のシアーデータ,またフライトプラン策定時に使用した乱気流域予測の状況に関して説明を行った.


6. 羽田空港ドップラーライダーによる観測事例
丹野咲里(気象庁観測部)

 羽田空港にドップラーライダーが設置されて約1年が経過し,非降水時のウィンドシアー等の観測事例が蓄積されてきている.今回はその中から以下の二つの事例について,ドップラーライダーのデータを用いた解析結果を報告した.一つ目は北東風の状況でハンガー下流の乱れが観測された後に,地上のシアーラインが空港を通過した2007年5月31日の事例である.この事例では,航空機により観測されたウィンドシアーとドップラーライダーで観測された風の急変域がよく一致していた.二つ目の事例は,関東地方に強い東風をもたらした台風第9号接近時(2007年9月5日〜6日)の事例である.ドップラーライダーにより,降水が始まるまでの風速の強まりや,風速が強まるとともに大気の乱れが大きくなっていく様子が捉えられていた.特に,滑走路番号34L側におけるハンガー下流の乱れを顕著に捉えていた.


7. 地表付近に普遍的に存在するストリーク気流構造の特性
山下和也,藤原忠誠(北海道大学環境科学院),藤吉康志(北海道大学低温科学研究所)

 近年ドップラーライダーによる観測から,地表付近(高度数百m程度以下)に水平風速が速い領域と遅い領域が流れ方向に長く伸び交互に並んだストリーク状の組織的気流構造が見出された(Drobinski et al.,2004;藤吉ほか,2005).札幌での長期にわたる観測から,ストリーク構造はある程度の風速(地上風速5m/s)以上であれば季節,昼夜,上空を通過する気象擾乱によらず,どのような気象条件下でも普遍的に存在することが明らかになった.本研究はストリークの生成・維持機構を解明するための手がかりとなるストリーク間隔の決定因子を探る事を目的としている.ストリークの間隔は上空ほど拡がり,概ね地上高度に比例する事が分かった.また境界層が低い夜間は間隔が狭く,境界層が発達する日中は拡がり,境界層高度との関係が明らかになった.風速との関係は明確ではなく,安定度と地表面形状で決まる抵抗係数がパラメータとなる可能性がある.


8. ドップラーライダーで検出した"つむじ風"の発生環境場
藤原忠誠,山下和也(北海道大学環境科学院),藤吉康志(北海道大学低温科学研究所)

 鉛直渦の構造をもつ"つむじ風"は,晴天日日中,風の穏やかな日に発生し,その接線速度が一般風に比べて非常に大きいため,低空でのヘリコプターの飛行に大きく影響を及ぼしうる(Hess et al.,1988).
 我々は,ドップラーライダーを用いて,2006年10月4日日中,札幌で"つむじ風"の検出に成功した.つむじ風は観測範囲内に多数存在し,直径は40-220m,渦度は,0.03-0.25/s,最大接線風速は,7.7m/sであった.またすべて反時計回りであり,環境場の渦度(海風と一般風がつくる循環)が正の渦度であることと,整合的であった.ドップラー速度分布図は,東側が網目状構造であった.また西側から強風帯が進入し,その先端部つまり水平シアーが大きい場所に,最も渦度が強いつむじ風が検出された.以上より渦度の成因は,網目状構造,水平シアー,環境場の渦度が考えられる.


9. 三沢飛行場における雲底高と温湿度及び風の場について
高橋靖,遠峰菊郎,菅原広史,奥田智洋,山尾理恵子(防衛大学校地球海洋学科)

 夏季の北日本(太平洋沿岸)において層雲(海霧を含む)による雲底高度の低下は航空機の運航に大きな影響を与える.雲底高度の変化傾向は気圧配置や経験則からある程度予測可能であるが十分とは言えない.三沢飛行場にたびたび侵入する雲底高度の低い層雲は,当初海霧であったものが下部のみ解消したものであると考えられているが,こうした層雲に限定した雲底高度の変化と各気象要素との関係については十分な研究事例が少なく,明らかではない.
 今回,航空自衛隊三沢基地において2007年6月に観測を実施した.観測では雲底高度,下層風分布をそれぞれシーロメーター,ドップラーソーダを用いて観測した.また地表,高さ1.5m及び高さ18mの温湿度を観測した.今回は,雲底高度の変化と主にサブクラウド層における各気象要素との関係について報告した.


10. 航空機からの観測報告と地上観測の関係
小林広征(成田航空地方気象台)

 航空機からのウィンドシアーのPIREPは風が強い時ほど多く報告される.そこで,ウィンドシアーの報告と地上風の関係を統計的に調査した.
 通報があった時の地上風向は北東,南西,北西,風速は11〜20ktに多く分布していた.また,1日当りの報告数が多いほど,報告時の風速の平均は大きくなることが分かった.2回以下と21回以上の場合では,10kt以上の差が見られた.
 地上で比較的風が弱い場合に報告された事例について,地上付近の下層風との関連を調査した.調査した事例では,接地逆転層の存在と鉛直シアーが大きい層の近傍でPIREPが報告されていることが共通していた.


11. 中東方面の気象特性に関する調査研究
島山知雪(防衛省航空気象群)

 2003年末開始された,航空自衛隊によるイラク人道復興支援も4年の歳月が過ぎ,今現在もその支援は継続している.この間で得られた気象データを基に,航空機の運航に影響を及ぼし,日本では観測されない,「砂塵」と風の関係について調査した.統計データを乾季・雨季に分け,統計的な特徴を調べ,事例解析及びMM5により砂塵発生時の立体構造の解明を試みた.アリ・アル・サレム空軍基地において,乾季の視程障害現象のほとんどが「砂塵」によるもので北西風が卓越し,砂塵発生の有無に限らず日中の風速は強まる.この強風の要因と砂塵発生の関係をMM5を使用し推定してみた.雨季は様々な現象が発現するが,砂塵の発現率は他現象に比べ高い.砂塵を観測した際の風向は,乾季同様の北西の他に南東〜南の風が加わる.他方向からの砂塵の侵入は少なかった.


参考文献
Drobinski, P., P. Carlotti, R. K. Newsom, R. M. Banta, R. C. Foster, and J. L. Redelsperger, 2004: The Structure of the Near-Neutral Atmospheric Surface Layer. J. Atmos. Sci., 61, 699-714.
藤吉康志,山下和也, 藤原忠誠,2005: 3次元走査型コヒーレントドップラーライダーによる大気境界層の流れの可視化. 天気,52,665-666.
Hess, G. D., and K. T. Spillane, 1988: Estimation of the parameters of convection dynamics. J. Aircraft, 25, 862-864.