第4回航空気象研究会の開催報告

(天気,58巻3号にも掲載しています)

 標記研究会が,2010年2月10日午後1時30分から6時まで,気象庁講堂において開催された.  本研究会は,航空機の安全で効率的な運航にとって不可欠な気象の観測や予報,情報提供などについて,気象学会レベルで関係者が広く交流し,研究を促進するために,2006年3月に日本気象学会のもとに「航空気象研究連絡会」が設置され,その活動の場として,今回の研究会に到ったものである.  別記するように,特別講演のほか,9題の講演が行われ,民間航空,研究機関,気象事業者,日本気象予報士会,防衛省関係者,気象庁関係者など,講堂が狭く感じるほどの約100名の人々が一堂に会した(第1図).
 研究発表は,古川委員長の挨拶に引き続いて,事務局の郷田および宮腰の司会の下に進められた.  題目は,航空気象におけるヒューマンファクター,次世代の運航システムの研究,タービュレンスの解析,ドップラーライダーによる観測や解析,強風事例,雷予測の検証など,多彩な発表があり,最後に総合討論を行った.  本研究会が航空気象分野の人々が広く交流する場として着実に発展していることを実感した.
(2009年度航空気象研究連絡会; 所属は当時のもの)
古川 武彦(気象コンパス)
郷田 治稔(気象庁航空予報室)
宮腰 紀之(気象庁航空予報室)
水野 量 (気象庁観測課)
新津 美晴(気象庁航空気象観測室)
塚本 尚樹(気象庁航空気象観測室)
三ア 保 (成田航空地方気象台)
庄司桂一郎(東京航空地方気象台)
吉野 勝美((株)全日空)
菊地 理 ((株)日本航空インターナショナル)
小野寺三朗(桜美林大学)
西野 逸郎(防衛省航空気象群)
小川 弘子(防衛省航空気象群)
(連絡先) takefuru@eos.ocn.ne.jp  古川

(研究発表題目:発表者および要旨)
特別講演 「ヒューマンファクターズと航空気象」
石橋 明 氏(東北大学大学院工学研究科)

 近年,航空輸送の安全性が世界的に高まっており,公共交通機関としての使命を果たしている.  その背景には,ハイテク技術を導入した航空機の設計技術の向上,点検整備分野の信頼性の向上,さらに空港や,航空交通管制などの運航環境の信頼性の向上などがある.  特に最近,運航に関与する航空従事者に対するヒューマンファクターズの研究とその成果であるCRM(Crew Resource Management)訓練などの普及が目覚ましい.
 海運界では,3つの真理として,「海は危険である」「自然の法則は変えられない」「ヒトは誰でも間違える」が挙げられている.  航空に置き換えても同様にこれは「真理」である.
 最近の航空事故の調査結果では,その多くが気象に起因していると報告されている.  安全性が高まっているとはいえ,さらなる航空安全を推進するためには,ヒューマンファクターズを含めた広い角度から航空気象の研究を進めることが期待される.  運航従事者のヒューマンファクターズと航空気象について講演を行った.

1.飛行障害現象の予報と検証について
奥田智洋,島山知雪,山尾理恵子,松田洋平(防衛省航空自衛隊航空気象群)

 飛行障害現象は今でも予報が困難である現象の一つである.  その理由として,実際に航空機が遭遇しなければ検証することが不可能であること,機上実況報の数が限られていること,さらに航空機の速度や大きさなどによって,強度が異なるなどが考えられる.  近年,飛行障害現象を予測するための新しい指標がいくつか発表されている.
 航空自衛隊における最近1年間の機上実況報と飛行障害現象の予報について,また顕著な飛行障害現象に遭遇した事例の検証結果について報告した.

2.JAXAの次世代運航システム研究開発「DREAMS」における航空気象関連研究について
又吉直樹(宇宙航空研究開発機構 航空プログラムグループ)

 増大する航空輸送需要や環境問題に対応するため研究開発が進められている次世代運航システム(米国:NextGen*1,欧州:SESAR*2)では,気象情報の高度活用技術が,安全かつ効率的な運航を実現する重要な手段として位置付けられている.  JAXAにおいては,関係機関との連携のもと,次世代運航システムの研究開発計画「DREAMS*3」を推進しており,重点技術分野の一つとして気象情報技術の研究を進めている.  特に,レーダ,ライダ等のリモートセンサと数値気象解析を組み合わせることで,空港周辺で発生する低層風擾乱の発生を高解像度で予測し,航空機の機種毎に異なる運動特性を考慮した上で運航に活用することを目指している.  低層風擾乱により発生する着陸復行や代替地着陸の低減を目指す「低層風擾乱アドバイザリシステム」,および気象条件に応じて後方乱気流管制間隔を短縮することを目指す「後方乱気流最適回避システム」の研究開発状況を紹介した. *1 Next Generation Air Transportation System:米国の次世代航空交通システム構想 *2 Single European Sky ATM Research:欧州の統一航空交通管理プログラム *3 Distributed and Revolutionary Efficient Air-traffic Management System:分散型高効率航空交通管理システム

3.飛行記録装置データを使った2009年5月13日船橋市上空で発生したSEV TURBの解析
佐野浩(気象庁予報部予報課航空予報室)

 2009年5月13日,航行中のパイロットから「0738UTCにMORIYAの南10NM,高度12,000ftでSEV TURB(強い乱気流)に遭遇」と報告があった.
 この乱気流について,同機に搭載していた飛行記録装置の解析データを使って,SEV TURBの発生した時刻と位置を詳細に特定した.
 その情報を基に,気象レーダーや羽田・成田の飛行場ドップラーレーダーなどを使って,SEV TURBをもたらした気象について解析した.
 その結果,以下の3点が明らかになった.
 @同機は07:37:39〜07:37:47の間,船橋市上空の高度約12,200ftを飛行中,発達中の対流雲頂付近でSEV TURBに遭遇した.
 A向かい風成分が12秒間に26kt増加したことがSEV TURBの一因と考えられる.
 B飛行場ドップラーレーダーにより,対流雲中の高度約10,000ftに南西風と北西風のシアーを,高度約11,000ftに29kt程度の上昇流を解析した.

4.ブロッキング高気圧周辺における晴天乱気流の分布解析
関佐和香,田中博(筑波大),小野寺三朗(桜美林大)

 ブロッキング高気圧とは,ロスビー波の砕波によりジェット気流を南北に蛇行させる,順圧的構造をした高気圧を指す.  ジェット気流が蛇行することによって曲率の大きなトラフやリッジが発生し,ブロッキングの場合それらが長期間存在し続けるため,南北方向の熱輸送が強まり,ブロッキング高気圧の南北で傾圧性は増大すると考えられる.
 また,晴天乱気流 (Clear Air Turbulence, CAT) の主要な原因であるケルビン・ヘルムホルツ不安定は,風の鉛直シアーが大きい安定層で発生しやすいが,風の鉛直シアーは主に温度風関係式に従って強化されるため,傾圧性の大きなブロッキングの南北ではCATが数多く発生している可能性がある.
 本研究では,ブロッキング高気圧が発生した領域を対象に,JRA-25*4再解析データを用いてCATを表現し得る複数の乱流指標を計算し,それらの分布の特徴と傾圧性との関係を調べた.  その結果,対流圏界面付近において,風の鉛直シアーが傾圧性によって強化されている領域と,それ以外の非地衡風成分によって強化されている領域が確認された.  さらに,ブロッキング高気圧周辺では蛇行するジェット気流の傾度風がもたらす非地衡風成分の影響が重要であることがわかった.
*4 Japanese Re-Analysis 25 years:気象庁と(財)電力中央研究所が実施した長期再解析プロジェクト

5.LESによるKelvin-Helmholtz波の解析
黒木祐樹,中西幹郎(防衛大学校地球海洋学科),藤吉康志(北大・低温研),藤原忠誠(北大・院・環境科学)

 Kelvin-Helmholtz(K-H)波は,晴天乱気流の要因の1つと考えられるため,航空機の安全運航に大きな影響を及ぼす.  K-H波の3次元基本構造の理解を深めるため,Nakanishi(2000)のドライバージョンのLarge Eddy Simulation(LES)を用いて数値実験を行った.  まず,Klaassen and Peltier(1985)の研究を参考に,LESモデルのK-H波の再現性を確認した.  次に,水平2.5km×2.5km,鉛直2kmの計算領域を設定し,3次元のK-H波の発生メカニズムを調べるため,(1)風向は一様で風速による鉛直シアがある条件および(2)風速は一様で風向に鉛直変化がある条件を与えてK-H波の特徴である猫の目のパターンの発生から減衰までの変化を視覚的に調べた.  この結果から,(1)と(2)の場合では,K-H波の波長および成長速度に差があることが分かった.  またK-H波の成長をエネルギーの見地からみるため,乱流運動エネルギーの生成・散逸項の時間変化を調べ,(1)と(2)の条件でどのような相違があるかを調べた.

6.ドップラーライダーで検出した,雲底部に形成される様々な擾乱
藤吉康志(北大・低温研),藤原忠誠(北大・院・環境科学),梅原章仁(北大・院・環境科学)

 ドップラーライダーを用いて,地表面付近の流れの特性(ストリーク構造,網目構造,ダストデビル,海風など)や,上空大気の多層構造とそこに発生する波について調べてきた.  最近注目しているのは,雲底部に発生する組織化的な擾乱である.  層雲系の雲底は,基本的に気温・湿度・風・エアロゾル等の不連続面に位置しているので,力学的・熱力学的な不安定現象が起こりやすいはずである.  最近,マンマタスなどの研究が進んできたが,意外と雲底部の組織的な構造についての研究は少ない(Kikuchi et al., 1991;Sassen et al.,2007; Kanak et al., 2008).  今回の発表では,積乱雲起源とは明らかに異なる,中層から上層の薄い層雲の雲底部に形成された,未知の擾乱を紹介した.  これらは,毎秒10mに近い強い下降流を発生させるため,航空機の航行に注意が必要である.

7.空港気象ドップラーライダーを使った低層ウィンドシアー検出手法改善の試み
山本健太郎(気象庁観測部観測課観測システム運用室)

 第3回航空気象研究会では,空港気象ドップラーライダー(以下,ライダー)の運用状況や測風性能の紹介のほかライダーで観測された値と航空機の揺れ(鉛直加速度)との関係について示した.
 また,新しい低層ウィンドシアー(以下,LLWS;Low Level Wind Shear)の検出手法として,LLWSが発生する際の特徴的なデータ分布パターンを捉えることにより,少ない事例数ではあるがLLWSの検出を行うことができた.
 これについて更に検証を進めた結果を報告するほか,香港国際空港において運用されている気象庁と同型ライダーを用いた世界初の低層ウィンドシアー検出システム(Lidar Wind Shear Alerting System)の検出アルゴリズムを参考とした手法によりLLWS検出を行い検証を行った.

8.成田国際空港で観測された北西強風について-2008.04.01の事例-
三ア保(成田航空地方気象台)

 成田国際空港で観測した北西強風(30kt以上)事例について,2008年4月1日の地上観測データおよび鉛直観測データにより実況解析を行った.  実況解析の結果,上空の強風領域の高度変化が解析され,地表付近に形成される接地逆転層が強風に関係していることが分かった.  JMANHMの再現実験は10分間隔で平面図・断面図を作成し動画で再現した.  動画による再現により接地逆転層が破壊される様子が確認でき,強風との関連は不明だが波動状の伝播が再現された.

9.雷の短時間予測(東京国際空港)の検証
山下順也(東京航空地方気象台)

 平成20年度航空気象予報技術検討会において作成した,東京国際空港対象の「雷の短時間予測」ワークシートを,2009年4月から9月にかけての独立資料により検証した.  ワークシートを用いることで,TAFの9時間先までの雷電の予測精度が向上し,「雷に関する飛行場気象情報」のリードタイム確保と空振りの軽減につながることが確認できた.

参考文献
Kanak, K. M., J. M. Straka and D. M. Schultz, 2008: Numerical simulation of mammatus, J. Atmos. Sci., 65, 1606-1621. Kikuchi, K., M. Fujii, R. Shirooka and S. Yoshida, 1991: The cloud base structure of stratocumulus clouds, J. Meteor. Soc. Japan, 69, 701-708. 気象庁予報部, 2009:雷の短時間予測(東京国際空港).平成20年度航空気象予報技術検討会,184-189. Klaassen, G. P. and W. R. Peltier, 1985 : The evolution of finite amplitude Kelvin-Helmholtz billows in two spatial dimensions, J. Atmos Sci., 42, 1321-1339. 航空気象研究連絡会, 2009:第3回航空気象研究会の開催報告.天気,56,1000-1002. Nakanishi, M., 2000 : Large-eddy simulation of radiation fog, Bound. Layer Meteo., 99, 329-378. Sassen, K., L. Wang, D. Starr, M. Comstock and M. Quante, 2007: A midlatitude cirrus cloud climatology from the facility for atmospheric remote sensing. Part V: Cloud structural properties, J. Atmos. Sci., 64, 2483-2501.