第7回航空気象研究会の開催報告

(天気,63巻11号にも掲載しています)

 標記研究会が,2013年1月31日13時30分から18時まで,気象庁講堂において開催された.本研究会は,航空機の安全で効率的な運航にとって不可欠な気象の観測や予報,情報提供などについて,気象学会レベルで関係者が広く交流し,研究を促進するために,2006年3月に日本気象学会のもとに「航空気象研究連絡会」が設置され,その活動の場として,今回のような研究会に到ったものである.別記するように,11題の発表が行われ,民間航空,研究機関,気象事業者および気象予報士,防衛省および気象庁関係者など,講堂が狭く感じるほどの約100名の人々が一堂に会した.  研究会は,古川委員長の挨拶に引き続いて,事務局の馬場および宮腰の司会の下に進められた. 講演題目は,山岳波,乱気流,低層擾乱,火山灰,気象情報の可視化など多彩な発表があり,最後に総合討論を行った.本研究会が始まって7年目を迎え,航空気象分野の人々が広く交流する場として着実に発展していることを実感した. なお、本来は開催後速やかに報告すべきところ,報告が遅れた.関係の皆さまにこの場をお借りしてお詫びする.また,やむを得ず、今号に第7回から第10回の報告を同時に掲載した.ご了承いただきたい.                (文責:古川武彦)
(2012年度航空気象研究連絡会; 所属は当時のもの)
古川 武彦(気象コンパス)
馬場 雅一(気象庁予報部)
宮腰 紀之(気象庁予報部)
植田 亨 (気象庁観測部)
土井 元久(気象庁観測部)
塚本 尚樹(気象庁観測部)
春原 城辰(東京航空地方気象台)
桜田 正美(成田航空地方気象台)
吉野 勝美(全日空)
浦 健一 (日本航空)
小野寺三朗(桜美林大学)
西野 逸郎(防衛省)
背戸仁一郎(防衛省)

(研究発表題目:発表者および要旨):
1.山岳波の現況監視について
八坂陽範(防衛省航空自衛隊中枢気象隊)

 山岳波に伴う乱気流は,操縦者が直接視認し回避することが難しいことから,飛行前気象ブリーフィングによる情報提供が重要である.飛行経路予報を行う上で現況の把握は重要であるが,気象衛星画像による波状雲の検出など手法が限られるうえ,波状雲などは必ず発生するわけではないことから,監視に漏れが発生する可能性がある.そこで,気象庁が外部機関と共同で開発を行っているウインドプロファイラのスペクトル幅を用いた乱気流検出と自衛隊機のPIREP (Pilot Report) との対応を調べる目的で,気象庁からスペクトル幅データの提供を受けた.その結果,対応が概ね良く山岳波に伴う乱気流の現況監視に有効であることが示唆された.

2.2012年2月1日に赤石山脈風下側で発生した乱気流に関する数値シミュレーション
西野直樹,遠峰菊郎(防衛大学校)

 航空機の運航にとって乱気流は,乗員や機体への損傷をもたらす重大なインシデントとなりうる現象であり,また数値予報システムが発展した今日においても完全に予測することが困難な飛行障害現象の一つである.複雑かつ急峻な地形を持つ我が国では,冬季における強い季節風と山岳に起因する晴天乱気流が発生しやすいことが知られているが,その現象スケールが空間的,時間的に非常に小さいものであることから現在の数値予報モデルでは捉えきれないものもある.本研究では,非静力学メソ気象モデルWRFを用いて,2012年2月1日に赤石山脈風下側で自衛隊機が遭遇した乱気流を例に,その気象場の再現を試みるとともに,乱気流予測の可能性を探った.

3.上層伝播した山岳波による乱気流事例の調査
三輪剛史(気象庁予報部)

 山岳波は,山岳風下側でのおろし風や跳ね水現象の発生,及び上方伝播した波の砕波を通して乱気流を発生させる.日本では,おろし風による下層の並の乱気流報告は多いのに対して,上方伝播した山岳波による並の乱気流報告はかなり少ない.2012年4月3日は日本海を低気圧が急発達しながら(中心気圧が24時間で42hPa低下)通過し,4日は北日本中心の強い冬型の気圧配置になった.衛星可視画像では奥羽山脈の風下側に山岳波による波状雲が観測され,仙台空港周辺では4日午前を中心に10000ft以下 (1ft=0.3m) で並の乱気流が多数報告された.加えて奥羽山脈上空の中上層(15000〜30000ft)の幅広い高度で並の乱気流が観測された.奥羽山脈上空の乱気流の要因を調査した結果,上方伝播した山岳波が砕波した可能性が示唆された.

4.ウィンドプロファイラによる晴天乱気流の検出を目指して
梶原佑介(気象庁観測部観測課/気象研),橋口浩之,山本 衛,東 邦昭(京大RISH),川村誠治(NICT),足立アホロ(気象研),別所康太郎,工藤 淳,岩渕真海(気象庁/気象研),黒須政信(日本航空)

 気象庁の1.3GHzウィンドプロファイラネットワーク(WINDAS)により,様々なタイプの乱気流が検出可能であることを第5回航空気象研究会で報告したが,現行のWINDASの性能では高高度・乾燥域で発生する晴天乱気流を十分検出できないという課題がある.この解決を図るべく,京都大学・情報通信研究機構・気象研究所が中心となり,2011年7月より共同研究を開始した(「航空安全運航のための次世代ウィンドプロファイラによる乱気流検出・予測技術の開発」).共同研究では,送信出力等の増大により高感度化を図った新型ウィンドプロファイラを製作し,また,感度や高度分解能をさらに高める信号処理技術を実装することで,乾燥域での晴天乱気流の検出を目指している.

5.気象情報の利用と安全運航 〜タービュランスへの取り組み〜
浦 健一(日本航空)

 航空機の運航において,タービュランスに遭遇することがたびたびある.エアラインにおいて,安全かつ快適な飛行を実施するために,タービュランスによるお客様や客室乗務員の負傷を防止すべく日々の業務に取り組んでおり,気象庁等より入手する各種気象情報や飛行中の航空機からのタービュランス情報(PIREP)を迅速かつタイムリーに伝達することが,たいへん重要となっている.JALグループでは,このタービュランス情報の運用に際して,空地間におけるタイムリーな情報共有の仕組みが構築されている.飛行中に地上から情報を受けた運航乗務員は,客室乗務員と連携しながらシートベルトサインの点灯および消灯を慎重に取り扱い,より安全なタイミングでの機内サービス実施を心がけている.また,地上からのタービュランス情報をもとにして,運航乗務員が飛行高度や経路の変更を実施することもある.さらに,実際に顕著なタービュランスが発生した場合には,地上担当者によって発生時の気象資料を速やかに収集するとともに必要に応じて事例を社内で共有することで,タービュランスに起因する航空事故撲滅に取り組んでいる.

6.東富士の低層雲について
金子隆博(ウェザー・サービス)

 静岡県裾野市にある東富士ヘリスポット及びその周辺では,特に梅雨時期,局地的に雲底高度1000フィート未満の低層雲が湧き,長時間シーリングを形成して,ヘリコプターのVFR (Visual Flight Rules, 有視界飛行方式)運航に支障をきたす気象状態にしばしば陥る.ウェザー・サービス社では,このヘリスポットを含んで,ヘリコプターに対する気象支援を2012年6月から開始したばかりであるが,前記の低層雲の発生・消散について,一シーズン分ながらある程度の資料を得た.今後,関連するデータなどを詳細に収集・分析して,予報精度の向上につなげたい.

7.中層雲底下で発生する乱気流の高解像度3次元シミュレーション
工藤 淳(気象庁予報部)

 第3回航空気象研究会において,中層雲底下で発生する乱気流の発生のメカニズムと発生条件を,観測データと1次元シミュレーションの結果を用いて示した.1次元モデルは計算量が非常に少ないためシミュレーションが容易に行えるというメリットがある一方で,現実の3次元の大気中で発生している対流や乱流を直接的には表現できないという問題がある.そこで今回は,3次元モデルを用いて高解像度シミュレーションを行った.シミュレーションの結果は1次元モデルで得られた結果と概ね同様であったが,3次元モデルを用いたことにより乱気流の発生過程に関して新たに興味深い結果が得られた.

8.空港周辺で発生する低層風擾乱の高解像度気象解析
菊地亮太(東北大学航空宇宙工学専攻)

 航空機の離着陸時の安全性,運航効率の効率化の観点から低層での風擾乱は非常に重要である.低層での風擾乱は複雑地形や建物の影響を大きく受けるため,現況で用いられている気象モデルでは計算分解能・地表面の再現性などから困難である.そこで本研究では,気象モデルの解析結果とラージエディーシミュレーション(LES)を組み合わせて複雑地形と建物を計算に含めた高解像度気象解析を行った.本研究の目的は,低層風擾乱の影響を強く受け就航率が低下することで知られている庄内空港を対象にLES解析を行い,低層風擾乱の発生要因,影響範囲の定量的評価を行うことである.LESの解析結果から,滑走路北側の約100ftの丘と空港ビルから発生する擾乱が滑走路上に影響を与えていることがわかっており,レーダ・ライダの観測結果とともに空港周辺の低層風擾乱の解析を行った.

9.羽田空港で観測されたgustnadoのデュアルドップラーライダー解析
藤原忠誠,田畑明,楠研一(気象研究所),鈴木修(気象庁観測部)

 我々は,戦略推進費「気候変動に伴う極端気象に強い都市創り」で,首都圏で発生する局地的大雨や突風に関して,観測に基づいたメカニズム解明に関する研究を行っている.2011年8月19日,羽田空港で低層ウィンドシアー(LWS)が発生し,多くの航空機で遅延や出発停止となった.本研究は,空港気象ドップラーレーダー(DRAW)と2台のドップラーライダーを用いたデュアルドップラー解析により,LWSの詳細な構造を調べた.その結果,LWSは,発達した積乱雲からのガストフロント(GF)により形成されており,DRAWの線状の非降水エコーと対応していた.しかし,GF付近の構造は,DRAWでは捉えていなかった.そこで,デュアルドップラーライダー解析を用いて,詳細な構造を解析したところ,水平スケールが500m程度の鉛直渦(gustnado)が,GFに沿って複数が発生していることが分かった.

10.水平ロール対流に伴う低層ウインドシアについて
吉野勝美(全日空)

 2012年6月20日,成田空港の位置する北総台地で,地上風(風向230゚, 風速16kt, ガスト29kt; 1kt=0.51m/s)にほぼ平行な整然とした「水平ロール対流」が,ドップラーライダーの観測と着陸機の飛行記録から解析された.この現象は,水平スケール約700m,鉛直スケール約600mで,低層の狭い空間(滑走路面上50ft以下,水平距離約300m)に5ktの向かい風から10ktの追い風に変化する顕著なTail Wind Shear(発散)を伴っていた.当時,下層大気には地表面上約2000ftに「乱流性逆転」,その下面から地表面に至る「不安定層」,不安定層上面に50ktを超える「下層ジェット」がそれぞれ形成されており,ドップラー速度場には水平ロール対流の下降流域(下層ジェットの運動量の輸送域)に対応する強風軸と上昇流域に対応する弱風軸が交互(縞状)に現れていた.この種のドップラー速度の分布は,必ずしも日射による地表の加熱を必要とせず,早朝における北西の強風場(風向320゚, 風速26kt, ガスト40kt)でも現れている.微視的には乱流を引き起こす起伏を持ち巨視的には平坦な地勢の北総台地では,大気境界層内の乱流混合に必要な適度な強風があれば,整然とした「水平ロール対流」が発生しやすいものと考えられる.成田空港では,特に着陸時において当該現象に起因する低層ウインドシアに注意を要する.

11.日本で発生した航空機火山灰重大被害−ICAOに報告された1991年6月27日雲仙岳事例−
小野寺三朗(桜美林大学)

 国際民間航空機関(ICAO)が2001年刊行した「火山灰等マニュアル」の附録(米国地質調査所(USGS)資料)によれば,航空機火山灰被害指数Class-4に該当する,エンジン一時停止(3発機の2基停止)被害が1991年6月27日,雲仙岳火山灰により発生している.Class-4は墜落(Class-5)に次ぐ深刻な段階の被害を意味し,1980年セントへレンズ,1982年ガルングン,1989年リダウト,1991ピナツボ,の何れも大規模噴火時に報告されている.1991年の雲仙火山表面活動は火砕流が主体であり,噴火も複数回報告されてはいるものの,何れも上記4火山の噴火に匹敵する規模の物ではなかった.日本国内で報告された唯一のClass-4事例である「雲仙岳火山灰によるエンジン2基停止被害」について,火山・気象・航空の資料に基づき検証を行った.