第2回航空気象研究会について
第2回航空気象研究会を下記の通り開催しました.
日時:2008年2月29日(金)14時00分〜18時15分
場所:気象庁大会議室(東京都千代田区大手町1-3-4 気象庁ビル5F)
入場無料.
開催主旨:
航空機の運航に影響を及ぼす気象の観測,予報,情報提供などについて,気象学会レベルで広く交流し研究を促進するため,2006年3月に日本気象学会の研究会の1つとして「航空気象研究連絡会」が設置されました.今般,同連絡会主催による第2回目の研究会を開催することとしました.
近年,航空機の年間旅客数は国内便で1億人,国際便で2,000万人規模に達しており,社会活動における必要不可欠な交通手段となっている一方で,航空機は,離陸から着陸まで気象条件に大きく支配されています.飛行場や航空路の気象現象を対象とした航空気象は,一般を対象とした気象観測や天気予報とは異なる特殊性や困難性を持っています.特に,落雷,突風,マイクロバースト,タービュレンスなどの現象は航空の安全をおびやかすものとして,気象庁などの行政機関および航空事業者などがそれぞれの業務の一環として研究を推し進めているところですが,気象学の立場からより横断的・組織的に研究を押し進めていくことが重要であると考えています.
講演内容:
1.特別講演
Aviation Meteorology, A Northwest Airlines Perspective
Tom Fahey(ノースウエスト航空会社) 講演は英語による
A historical review of operational meteorology from a commercial aviation operator's perspective will be provided.
The bulk of the presentation will describe how meteorology fits within the entire airline organization and will focus on current applications of aviation meteorology at Northwest Airlines.
Future meteorology related needs in aviation will also be touched upon.
講演資料
2.2007年10月16日に10,000FT前後で多発した乱気流
堀川道広,儘田裕司,鳥井克彦(東京航空地方気象台)
2007年10月16日,房総半島上空10,000FT付近でMOD TURBのPIREPが多数入電した事例について報告する.午前8時30分頃には成田付近上空でMOD TO SEV TURBが報告されている.この日は,南海上に拡がる雲域の北の端が関東地方南部にかかり,レーダーエコーは散在している程度であった.勝浦ウィンドプロファイラーの観測によれば,6,000FT以下で北東風,12,000FT以上では南西風50KT以上となっており,10,000FT付近の高度で大きい鉛直シアーが観測され,終日同じような状況が長時間続いた.PIREPによるMOD TURB以上の乱気流は,勝浦ウィンドプロファイラーの鉛直シアーおよそ16KT/1000FT以上に対応していた.非静力学の2KMモデルでは,ウィンドプロファイラーと同程度の大きい鉛直シアーが予想されたことから,中下層における乱気流域の予想について高解像度モデルが有効であると考える.
3.航空機被雷を防止するための航空気象予報上の一考察
道本光一郎(防衛省航空気象群)
今年も寒候期に入り,平成19年11月17日21時半頃に北海道新千歳空港離着陸の民航機2機が相次いで被雷し,機体等の損傷が出た旨の新聞報道がなされた(産経新聞平成19年11月18日朝刊).
従来から,我々は小松空港周辺の冬季雷の研究を通じて,同空港周辺における航空機被雷について,気象的及び電気的なデータを用いた被雷回避のための情報を得ることができないかという観点からの解析研究を継続して実施している.
本研究会では,最新の被雷事例の紹介及び過去の解析結果等を通じて,航空気象予報という切り口から被雷回避のための予測情報の出し方等について議論する予定である.
4.気象庁における航空気象予報プロダクトの作成について
三崎保(気象庁予報部)
気象庁では,2007年3月から従前の「国内悪天予想図(FBJP)」に加え,新たに「国内悪天解析図(ABJP)・国内悪天実況図(UBJP)」の提供を開始した.国内悪天予想図は,主に運航計画に資するものとして,提供からおよそ6時間後の国内及びその周辺の地上からおよそ200hPa(39,000ft)までの高度について,雷電や乱気流等の悪天域やジェット軸及び地上気圧系の動き並びに着氷可能域の目安として5,000ftと10,000ftの0℃の等温線を予想して,毎日6時間毎に提供しているが,ここでは,特に,乱気流や雷電等の悪天域に焦点を当てて,その作成・予測手法を紹介する.一方,新規の「国内悪天実況図・国内悪天解析図」は,パイロットの即時的な利用に資するものとして,悪天域等の実況図を毎時間,またそれらの悪天域に対するコメントを付したものを3時間毎に,実況時刻から出来るだけ短時間内に提供しているが,それらの概要と解析図の解析手法等を報告する.
5.乱気流観測・予測技術の開発
井之口浜木,遠藤栄一,及川博史,田中久理,稲垣敏治(宇宙航空研究開発機構(JAXA) 運航・安全技術チーム)
近年わが国では航空機が墜落するような大事故は減少の傾向にあるものの乱気流に遭遇して機体が揺れ,死傷者が発生する事故は増加の傾向にあり,乱気流への対策が求められている.宇宙航空研究開発機構(JAXA)では乱気流を主因とする事故に対処するため乱気流事故防止技術の開発を進めており,乱気流による風の流れを直接観測する装置として航空機搭載用風計測ライダーの開発,そのライダーデータを使って乱気流を検出する乱気流検出技術の開発,前方に乱気流が検出された場合に機体の動きを決める機体制御技術の開発,また気象情報として事前に乱気流の発生しやすい時間・場所を呈示する乱気流域予測技術の開発を行なっている.ライダーの開発は低高度で3NMの計測範囲を持つ装置を昨年度試作し,本年度は北海道での飛行試験を行なった.今回は飛行試験を含めたJAXAの航空機搭載用ライダー開発の状況と,北海道での乱気流域予測について報告する.
6.羽田空港ドップラーライダーによる観測事例
丹野咲里(気象庁観測部)
羽田空港にドップラーライダーが設置されて約1年が経過し,非降水時のウィンドシアー等の観測事例が蓄積されてきている.今回はその中から以下の二つの事例について,ドップラーライダーのデータを用いた解析結果を報告する.一つ目は北東風の状況でハンガー下流の乱れが観測された後に,地上のシアーラインが空港を通過した2007年5月31日の事例である.この事例では,航空機により観測されたウィンドシアーとドップラーライダーで観測された風の急変域がよく一致していた.二つ目の事例は,関東地方に強い東風をもたらした台風第9号接近時(2007年9月5日〜6日)の事例である.ドップラーライダーにより,降水が始まるまでの風速の強まりや,風速が強まるとともに大気の乱れが大きくなっていく様子が捉えられていた.特に,34L滑走路側におけるハンガー下流の乱れを顕著に捉えていた.
7.地表付近に普遍的に存在するストリーク気流構造の特性
山下和也,藤原忠誠(北海道大学 環境科学院),藤吉康志(北海道大学 低温科学研究所)
近年ドップラーライダーによる観測から,地表付近(高度数百m程度以下)に水平風速が速い領域と遅い領域が流れ方向に長く伸び交互に並んだストリーク状の組織的気流構造が見出された(Drobinski et al.,2004;藤吉ら,2005).札幌での長期にわたる観測から,ストリーク構造はある程度の風速(地上風速5m/s)以上であれば季節,昼夜,上空を通過する気象擾乱によらず,どのような気象条件下でも普遍的に存在することが明らかになった.本研究はストリークの生成・維持機構を解明する為の手がかりとなるストリーク間隔の決定因子を探る事を目的としている.ストリークの間隔は上空程拡がり,概ね地上高度に比例する事が分かった.また境界層が低い夜間は間隔が狭く,境界層が発達する日中は拡がり,境界層高度との関係が明らかになった.風速との関係は明確ではなく,安定度と地表面形状で決まる抵抗係数がパラメータとなる可能性がある.
8.ドップラーライダーで検出した"つむじ風"の発生環境場
藤原忠誠,山下和也(北海道大学 環境科学院),藤吉康志(北海道大学 低温科学研究所)
鉛直渦の構造をもつ"つむじ風"は,晴天日日中,風の穏やかな日に発生し,その接線速度が一般風に比べて非常に大きいため,低空でのヘリコプターの飛行に大きく影響を及ぼしうる(Hess et al.,1988).
我々は,ドップラーライダーを用いて,2006年10月4日日中,札幌で"つむじ風"の検出に成功した.つむじ風は観測範囲内に多数存在し,直径は40-220m,渦度は,0.03-0.25/s,最大接線風速は,7.7m/sであった.またすべて反時計回りであり,環境場の渦度(海風と一般風がつくる循環)が正の渦度であることと,整合的であった.ドップラー速度分布図は,東側が網目状構造であった.また西側から強風帯が進入し,その先端部つまり水平シアーが大きい場所に,最も渦度が強いつむじ風が検出された.以上より渦度の成因は,網目状構造,水平シアー,環境場の渦度が考えれる.
9.三沢飛行場における雲底高と温湿度及び風の場について
高橋靖,遠峰菊郎,菅原広史,奥田智洋,山尾理恵子(防衛大学校地球海洋学科)
夏季の北日本(太平洋沿岸)において層雲(海霧を含む)による雲底高度の低下は航空機の運航に大きな影響を与える.雲底高度の変化傾向は気圧配置や経験則からある程度予測可能であるが十分とは言えない.三沢飛行場にたびたび侵入する雲底高度の低い層雲は,当初海霧であったものが下部のみ解消したものであると考えられているが,こうした層雲に限定した雲底高度の変化と各気象要素との関係については十分な研究事例が少なく,明らかではない.
今回,航空自衛隊三沢基地において2007年6月に観測を実施した.観測では雲底高度,下層風分布をそれぞれシーロメーター,ドップラーソーダを用いて観測した.また地上,1.5m及び18mの温湿度を観測した.今回は,雲底高度の変化と主にサブクラウド層における各気象要素との関係について報告する.
10.航空機からの観測報告と地上観測の関係
小林広征(成田航空地方気象台)
航空機からのウィンドシアーのPIREPは風が強い時ほど多く報告される.そこで,ウィンドシアーの報告と地上風の関係を統計的に調査した.
通報があった時の地上風向は北東,南西,北西,風速は11〜20ktに多く分布していた.また,1日当りの報告数が多いほど,報告時の風速の平均は大きくなることが分かった.2回以下と21回以上の場合では,10kt以上の差が見られた.
地上で比較的風が弱い場合に報告された事例について,地上付近の下層風との関連を調査した.調査した事例では,接地逆転層の存在と鉛直シアーが大きい層の近傍で報告されていることが共通していた.
11.中東方面の気象特性に関する調査研究
島山知雪(防衛省航空気象群)
2003年末開始された,航空自衛隊によるイラク人道復興支援も4年の歳月が過ぎ,今現在もその支援は継続している.この間で得られた気象データを基に,航空機の運航に影響を及ぼし,日本では観測されない,「砂塵」と風の関係について調査した.統計データを乾季・雨季に分け,統計的な特徴を調べ,事例解析及びMM5により砂塵発生時の立体構造の解明を試みた.アリ・アル・サレム空軍基地において,乾季の視程障害現象のほとんどが「砂塵」によるもので北西風が卓越し,砂塵発生の有無に限らず日中の風速は強まる.この強風の要因と砂塵発生の関係をMM5を使用し推定してみた.雨季は様々な現象が発現するが,砂塵の発現率は他現象に比べ高い.砂塵を観測した際の風向は,乾季同様の北西の他に南東〜南の風が加わる.他方向からの砂塵の侵入は少なかった.以上について詳しく説明する.
問い合わせ先:古川武彦(takefuru@eos.ocn.ne.jp),土田信一(s-tsuchida@met.kishou.go.jp)