近藤 豊 会員 紫綬褒章受章

 近藤豊会員(東京大学・理学系研究科・教授)が、地球大気環境科学における顕著なご功績により、2012年秋の紫綬褒章(2012年11月3日の褒章発令)を受章されました。

 人間活動による地球規模での大気化学組成の変化は、人類の生存環境としての大気の質と地球の気候システムに大きな影響を与えています。近藤会員は永年にわたって先端的な測定手法の開発と独創的なデータ解析により、このような地球大気環境科学の研究・教育の推進に努めてこられました。これらの研究では、近藤会員は一貫して高精度測定の追及という観測の原点に足場を置き、各種の測定器の開発にもとづいて気球、航空機、地上観測を世界各地で実施するとともに、国内外の研究プロジェクトを推進されてこられました。そして成層圏オゾンの破壊メカニズム、対流圏大気の酸化力・大気質の変動要因、気候変動に関わるエアロゾル(微粒子)の動態など、大気環境科学の重要課題の解明に傑出した業績をあげられてきました。

 成層圏オゾン研究では、成層圏全高度での一酸化窒素(NO)と総反応性窒素酸化物(NOy)の同時直接測定を世界で初めて成功させ、北半球中緯度や北極でのオゾン破壊メカニズムの解明に重要な貢献をされました。また人工衛星「みどり」に搭載された成層圏オゾン化学組成測定器(ILAS)のデータ解析および、北極域での気球検証実験にも大きな役割を果たされました。対流圏大気の研究ではアメリカ航空宇宙局(NASA)のグローバル航空機観測プロジェクトにおいて窒素酸化物の測定を何度も担当されるとともに、アメリカ海洋大気庁(NOAA)や宇宙航空開発機構(JAXA)などと共同してアジアを中心とした数々の観測プロジェクトを推進されてこられました。そして対流圏オゾン生成の鍵となる窒素酸化物の収支や反応系全体を統一的に把握する知見を初めて示すなど、画期的な成果をあげられました。さらに地球温暖化効果をもつエアロゾルであるブラックカーボンの測定手法の確立に尽力され、アジアや北極圏でのブラックカーボンの動態を明らかとしてきました。

 これらの研究は国内外で高い評価を受け、日本気象学会賞など国内学会の数々の賞を受賞されるとともに、2009年にはアメリカ地球物理学連合(AGU)のFellowを受賞されています。また大気化学研究の方向性を提言する国際グローバル大気化学研究(IGAC)委員やその国内対応組織である日本学術会議IGAC小委員会の委員長を務められるなど、大気化学分野の発展に多大な貢献をされてきました。

 今回のご受章を心よりお喜び申し上げますと共に、今後のますますのご活躍とご健勝を祈念いたします。

(東京大学 小池真)