カラーぺ一ジ

1999年7月21日東京都心周辺に豪雨をもたらした積乱雲*

小林文明**・上野洋介**・稲富成子**・紫村孝嗣**・レーダー観測グループ**

 1999年7月21日午後,南関東で発生した雷雲は,練馬で局地的豪雨を記録し,浸 水,落雷によりそれぞれ死者1名が出たほか,各地で被害が相次いだ.
 写真は,当日15時38分に横須賀,観音崎(防大屋上,標高100m)から撮影された,発 達過程の積乱雲である.当日,南関東では14時ごろから積乱雲が発生し始め,北 から北西方向にかけて積雲(積乱雲)の発生・衰弱が繰り返された.その中で,15 時30分ごろから北方向にひときわ大きく,急速に発達する積乱雲が認められた. この積乱雲は,わずか10分足らずで圏界面まで達する,"爆発的な"成長をとげ, 同時にアンビル(anvil,かなとこ雲)が前面(南)に急速に広がった.アンビルは 16時すぎには観測点(横須賀)上空に達した.練馬豪雨はちょうどこの時間帯に 対応しており,東京都の雨量計では16時13分までの1時間に131mmを記録した.写 真の積乱雲をビデオでみると,成長過程がより良く理解される.
 この積乱雲群に関して,防大においてドップラーレーダー観測も行っておりそ のライフサイクルを捉えることができた.本レーダーはXバンド(9780MHz)の可 搬型であり,レンジ64/128kmの切り替えることにより,南関東一円を望むことが できる.第1図は16時07分の高度2kmのCAPPI画像であり,長さ100km程度,幅 10-20kmのライン状のエコーが形成されたことがわかる.写真の積乱雲に対応す る練馬周辺には,50dBZを越える強エコー域を有するエコーセルが存在した.
 ちょうど練馬上空を切る16時15分のRHI画像(方位角355度)をみると(第2図), エコートップ17kmに達する発達したエコーの明瞭な断面構造がみられた.すな わち,40dBZを越える強エコー域が地上から上空1Ekmまで前方に傾いた形で伸び ており,上空の前面にオーバーハングした層状性エコー(アンビル)は20km前方 まで達し,全体として"キノコ"状の形状が顕薯であった.このときのドップラー 速度パターンには,下層から中層でエコー前面からの流入(黄色のレーダーから 遠ざかる南風成分),後面からの中層への流入,上層での前方への流出(青色の近 づく北風成分),および地表付近のガストのアウトフローという循環系が認めら れた.
 ガストフロントは図中45km付近に対応する.このエコーシステムは南東方向 に伝搬し,1一時30分ごろレーダーサイトでもガストフロントの通過が確認され た.この積乱雲群に伴う雷活動は活発であり,落雷数は1時間当たり2000回に達 した.落雷による死亡事故と負傷事故も神奈川県相模原市(16:40)と東京都杉並 区(16:20)で報告されている.落雷頻度は練馬上空の積乱雲が発達した16時前後 でピークを迎え,またこの積乱雲周辺に落雷は集中していた.
 夏季関東平野で発生する雷雨は,近年「都市型豪雨、と呼ばれているように 防災面からも重要視されている.防大レーダーは,1999年6月から運用を開始し, 南関東のメソ現象の観測を続けているが,改めて観測に適した場所であること が実感された.なお,落雷データは東京電力より提供して頂きました.


 写真 1999年7月21日15時38分の積乱雲.横須賀(防大レーダーサイト)から 北を望む.練馬豪雨時に対応している.


 第1図 1999年7月21日16時07分の高度2kmCAPPI,画像.実線はRHIの方位角 (355度)を,矢印は練馬の位置を示す.また北北東方向のノーエコー域はシャドー である.反射強度レベルは第2図と同じ.


 第2図 1999年7月21日16時15分のRHI画像(355度断面).エコー強度(上)とドッ プラー速度(下).エコー上部の矢印は前後8分間の落雷位置(青1負極性,赤:正極 性)を示す.


* Cumulonimbus which brought Heavy Rain in the Metropolitan Area on 21 June 1999.
** Fumiaki Kobayashi, Yousuke Ueno, Nariko Inatomi, Takatsugu Shimura, 防衛大学校地球海洋科.
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