カラーぺ一ジ

ヨシ原焼きにより発生した雲*

和田光明**

 空気が何らかのきっかけにより上昇し,凝結高度を超えて凝結が始まれば雲 が発生することは周知のとおりである.上昇流は,人工的な熱源でも起こり,雲 が発生することもある.例えば大きな火災により,雲が発生することがある.写 真1に示した雲も,人工的な上昇流により発生した雲である.
 大阪府高槻市道鵜町の淀川右岸河川敷にはヨシ原(第1図b中,ハッチで示した 地域)がある.この付近の葦は品質がよく,戦前には皇室にも献上されていた.戦 後,ヨシの新芽の成長を促すため,鵜殿町実行組合と上牧町実行組合により毎年 2月の第2日曜日の午後,約38ヘクタールを焼きくヨシ原焼きが行われている.当 地では通称「鵜殿のヨシ原焼き」と言われている.2000年の「鵜殿のヨシ原焼 き」は2月13日13時から15時にかけて行われた.写真1は13日14時頃に大阪府枚 方市南楠葉2丁目(第1図a中,P地点)で撮影したものである.写真1の中央付近に ある雲がヨシ原焼きにより発生した雲で,南方向流れていることがわかる.また, 写真1の中でAで示した付近がヨシ原焼きが行われた方向である.写真2 は淀川河口から31km地点付近の右岸でヨシ原焼きの様子を撮影したものである. 写真2(b)から,煙は南方向に流れていることがわかる.
 天気図は示していないが,2月13日は弱い冬型の気圧配置であった.13日15時 潮岬の風の高度分布によると,1000hPa付近は風速が5-10m/s,風向は西ないし西 南西であった.900hPa付近では風向が西北西から北西で3m/s-4m/sであった.枚 方のアメダスデータでは降雨は記録されていないが,13日午後は撮影地周辺で 弱い雨が降っている.大阪管区気象台地上観測資料の記事欄では,13時35分から 14時10分の間と14時20分から14時25分の間に,にわか雨の記録がある.ただし, 雨量はどちらも0.0mmであった.
 アメダス枚方(第1図a中,H地点)の気温と大阪管区気象台の露点温度を使用し て,凝結高度を計算した.14時観測のデータにより持ち上げ凝結高度LCLを計算 すると,ヘニングの公式では975.0mとなる.持ち上げ凝結温度をBolton(1980)が 示した方式により求め,LCLまで気温は乾燥断熱減率9.8℃km-1で低下するもの と仮定すると,LCLは993.0mとなる.
 ヨシ原焼きの現場が河川敷であり,この日は雨が降ったため,この計算で使用 した湿度よりも現地での湿度は高いと考えられる.このため,凝結高度は計算値 よりも低く,ヨシ原焼きにより発生した雲の高度も計算された凝結高度よりも 低いと考えられる.
 この季節は西寄りの風が吹くことが多い.ヨシ原焼きが行われている対岸の 枚方市側では住宅地となっており,煙や灰の流れ込む枚方市側の住民から苦情 が多くなったとのことである.このため,鵜殿のヨシ原焼きは今年から中止となっ た.
 ヨシ原焼きの写真を提供していただいた高槻市役所市長公室広報課に感謝い たします.凝結高度の計算と,潮岬の風の高度分布は,気象庁提供のデータを使 用した.

参考文献
Bolton, D., 1980: The computation of equivalent potential temperaturure. Mon. Wea. Rev., 108, 1046-1053.
水野量, 2000: 雲と雨の気象学(応用気象学シリーズ3), 朝倉書店, 37-47.


 写真1 鵜殿のヨシ原焼きにより発生した雲,2000年2月13日14時頃撮影.Aで示した方向が鵜殿のヨシ原で,写真に下に示した方角は撮影地点からのものである.


 写真2 2000年のヨシ原焼き現場(a)は淀川河口から31km地点付近の右岸で撮影.(b)はやや上流側で撮影.写真の下に示した数値は,撮影地点を中心とした北からの角度である.写真提供は高槻市役所市長公室広報課である.


 第1図 (a)は周辺図で(b)は拡大図.(a)中,Uで示した地域でヨシ原焼きが行われた.Pは写真1の撮影地点である.Hはアメダス(枚方)観測点である.(b)中,Pは写真1の撮影地点,SとTはそれぞれ写真2(a)と写真2(b)の撮影地点であり,ハッチ部分がヨシ原焼きが行われた場所である.地図は国土地理20万分の1地図と2万5000分の1地図を使用した.


 第2図 2000年2月13日15時の潮岬の風の高度分布.矢羽は風向を現す.


* A cloud formed by burning the reed field.
** Mitsuaki Wada, 国土環境株式会社.
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