第33期第1回評議員会議事録

日 時

会 場

出席者(敬称略)

合計24名.

議事

  1. 開会の挨拶(廣田理事長)
  2. 出席者の紹介
  3. 評議員会の趣旨説明
    前の第32期から,気象学会と一般社会との関連や教育などの問題について議論し てきた.第33期も基本的にこの内容で議論を深めたい.外部に対し開かれた学 会活動のあり方を考えるに当たり,具体的に,
    (1) 中学・高校・大学教養課程における理数教育について,
    (2) 地球環境問題の啓蒙・啓発活動について,
    (3) 気象データの流通・活用および気象予報士会と気象学会の関係について,
    という三つのテーマを設定した.それぞれの内容に関わる評議員の方から ご提言を頂き,それに対し質問する形で進めたい.その後,全体について自由 に討論したい.

  4. 評議員の意見
    (1) 中学・高校・大学教養課程における理数教育について

     廣田 

    若者の“理科離れ”が言われている.教育を取り巻くさまざまな問題の中 で,まず“理科離れ”についてご意見を伺いたい.

     木村龍治評議員 

     これまで,教育に関わるいろいろな仕事をしてきた.大学の教養課程で気象の 講義も行なっている.その立場から気象学会の活動を見ると,“研究”にベクト ルが向いていると思う.最近は,学会活動におけるアウトリーチ(一般社会に向 けて教育普及・啓発活動等の働きかけを行うこと)が重要になってきているが, 個人的には,研究とアウトリーチの両立は難しい問題だと思う.実際,専門家の 教育と一般向けの教育で必要とされる知識は全く違うので,専門教育の“さわり” を一般向けに教えるという発想では上手くいかない.全く別の発想が必要だ.
     勉強には“動機付け”が必要であり,“面白い”と思うことが自然への興味に つながる.今の社会では,さまざまな知識を得る環境は整備されつつあるので, 如何に“動機付け”を行なうかが重要だ.これについては最先端の研究成果を示 すのが良いのではないか.最先端の成果は必ず何か働きかけるものを持っている ので,これを“動機付け”に活用するのが効果的だ.最先端の成果は新聞に載る ことが多いので,初等教育には新聞を活用している.学問の土台を教える前に “動機付け”が大切だ.

     丸山健人評議員 

     私が勤務していた大学は教員を養成する大学であることから,“教科書 を如何に教えるか”という視点からいろいろなことが教えられてきた.天 気図の利用が理科の教科書に載っていた頃は,学生はそれを教えるために ラジオ天気図を描いたり気象観測をやっていたが,中学校でも,高校でも, 大学でも地上天気図だけでは進歩がないので,大学教養レベルの知識とし て高層天気図を授業に取り入れ,地学教育関係の雑誌にも広めたところ, 高層知識の普及にもつながった.こういう素地があると“地衡風”の考え も理解し易いのだが,最近は専ら理論的説明が優先され,観測など実際の 現象から入るような方法が重視されていない.このため,“興味のあるこ とを伸ばす”のではなく,“興味のないことから入る”教育になっている.
     大学入試センター試験で地学の選択者に選択した理由を聞くと,暗記で点が取れ るからという理由も多い.このように学生・生徒の興味と実際の勉強内容が合っ ていないことも多く,これも“理科離れ”の実態だと思う.

     神田 学評議員 

     私は土木のエンジニアリングが専門だが,土木と気象には,“総合性” と“生活視点”という共通点がある.前者について,最近はいろいろな学 問において細分化が進み過ぎているように思う.学問を構成するさまざま な要素間の関係を持たせる仕掛けが投入できれば“動機付け”に効果があ ると思うが,気象も土木もそれが期待できる分野だと思う.
     また,後者は直接の“動機付け”につながるものだ.大学で環境に関する計測 の演習を行なっているが,気象は重要な因子であると共に地域密着でもある.こ のような“生活視点”の教育を取り上げていくことが良い.気象学会としては, 大学の取り組みを機関誌で取り上げたり表彰したりすることに加え,大学が行なっ ている地域フォーラムを共催する等の活動を行なうべきではないか.

     廣田 

     本日ご欠席の上野健爾評議員(京都大学大学院理学系研究科教授(数学))か ら,子供に焦点を当てた教育についてご提言を頂いている.その中でも,実際に ものに触れて感じるところから始まる教育の重要性が述べられている.実際に現 場で生徒を教えている坪田理事のご意見を伺いたい.

     坪田 

     木村評議員ご提言の“動機付け”について,私の学校(慶応義塾高校)では文 部科学省の“super science high-school”の指定の下でいろいろな取り組みを 行なっているが,なかなか生徒が喰い付いてこない.情報が多すぎて興味が分散 していることや,習い事やクラブ活動で忙しいことが原因だろう.特別な取り組 みの枠ではなく,正規の授業の中で“動機付け”ができないと難しい.

     古川 

     私は“教育と普及委員会”の夏季大学で学校の先生を対象に啓蒙活動を 続けており,神田評議員の視点が参考になった.当委員会でも一般の方の興味を 引くようなホームページの公開を行なっていきたい.本日ご出席の日本気象予報 士会の岩田評議員にも委員会に入って頂いている.今後,予報士の方々との活動 を拡げていきたい.

     廣田 

     気象の教育についてご意見を伺ったが,気象学会という立場でこれらの理念を 行動に移すには,どのような具体策を考えればよいか.

     陳 介臣評議員 

     (財)日本気象協会でもこれからの気象教育のあり方について懸賞論文を募集 したところ,現状の危機感を訴える38編の応募があった.これらの内容が関係各 方面の活動の素地になれば良いと考えている.
     気象学会は,気象知識の“レベル”について提言すべきだと思う.現場の活動 や啓蒙教育にもいろいろな場面があり,どこまで教えれば良いのか迷いがある. いろいろな活動の“レベル”を想定した“知識の仕分け”を提言すべきだ.
     また,各種活動に講師を派遣したり教材を提供する等の支援を行なえば,民間 のいろいろな団体から気象学会に対してアクセスしやすくなると思う.

     木村龍治評議員 

     私が関わっているNPOの“理科教育支援プロジェクト”が近く発足する.日本 学生科学賞の審査を長く担当しておられる東京大学の大木道則先生(名誉教授) は,理科教育における“教え過ぎ”を指摘している.理科の面白さは,現象への 興味・疑問とそれを解決する工夫にあるが,最近の理科教育は解決方法をはじめ から教え過ぎるという指摘である.このため,小・中学校の生徒に直接働きかけ て理科の面白さを教えるNPOを発足させる.いろいろな学校とリンクし,合宿形 式で研究者を招いたりする活動を予定している.これには気象学会の協力が必要 である.アウトリーチの一環としてご協力頂きたい.

     丸山健人評議員 

     最近の学生は参考書ではなく,インターネットから情報を集めることも多い. 環境と気象学という面からも情報の充実を図っていく必要があるだろう.

     宮原 

     “理科離れ”を防ぐために,通常の教育カリキュラムの中で対応するか,それ とも,坪田理事のご意見にあった“super science high-school”のような特別 な取り組みで対応するかという問題があり,両者を分けて考える必要がある.前 者については,理科科目として地学で大学受験をする生徒が少ない現状では,学 会として力が入らないのが現状だ.地学に対して興味がある生徒に対して,大学 に進学した後のことまでを考えて対応しないと,きちんとした“動機付け”は難 しい.

     住 

     情報過多は問題だ.最近はいろいろな知識が集積化し,物事の仕組みが“ブラッ クボックス”化している.即ち操作性のみが問題となり,中身については議論さ れない.中身を教えるには意図的に環境を作る必要があり,これが教官の負担に もなっているのだが,自然との触れ合いの中で興味を持たせる環境作りは必要だ. 天気予報は1日に30分以上もメディアの画面に流れており,一般市民に知識の下 支えがある点でメリットが大きい.

     廣田 

     今までの話を総合すると,学会の活動として,自ら出向いて行き活動する側面 と,情報をアクセスしてもらい易い道筋を作るという二つの側面があると思う. 一方で情報過多という指摘もある.学会は情報を出しそびれているのか,それと も十分に出しているのか.

     住 

     民間企業の社員から小学校の校長に転進した人の例がある.その学校では15分 を単位として次々とテーマを変え,各テーマではきちんと結論を出すダイナミッ クな授業を行なっている.これにより生徒が積極的になることが報告されている. 授業の進め方について,“座って聴く”だけではなく一工夫が必要だろう.変え ていくところと守るところをきちんと考えることが大事だ.

     栗原 

    この二〜三年は,地震・大雨等の災害が多発し,気象情報の伝え方や,教育現場 への防災情報の提供のあり方など,多くの課題に取り組んでいる.気象防災に関 する教育機関への働きかけについて,子供たちへの取り組みにより,それが父母 に伝わるという波及効果もある.ただし,“子供が忙しい”というご指摘もあっ た.理数教育というより,“生きていく上での知識”を充実させるために息の長 い活動が必要である.この点で大学や気象台,学会との連携を強くして活動する ことも効果的であると考える.

     板東 

     インターネットの子供向けのページを見ていると,子供が飽きずに見ることが できる分量というものがあり,子供向けに判りやすい資料を作ることは本当に難 しい.いろいろな機関の取り組みと連携が取れれば良いと思う.

     近藤 

     初等教育は重要だ.“動機付け”は大事だが,物理的な側面も合わせて教える べきだ.実際の教育現場での教え方について,気象学会はあまり関与していない のではないか.また,ホームページの利用については,暗記的な側面を補うよう な資料や,教科書の説明を更に詳しく調べたいときのリンクの形などで用意する のも効果的だと思う.

     木村龍治評議員 

     教科書の編成やインターネットの利用については,最近さまざまな取り組みが あるのではないか.

     坪田 

     教科書作りにはいろいろな人材を投入しているようだが,地学分野に気象の関 係者が必ず入る訳ではない.教科書を作る際に気象関係者がいたとしても,きち んと指導できるかという問題もある.

     住 

     教師の資質については難しい問題である.

     廣田 

     教育という面では,次のテーマにも関わるところが多いので,ここまでの内容 も含みながら次の議題に移ることとしたい.


    (2)地球環境問題の啓蒙・啓発活動について

     神田 学評議員 

     地球環境を考える上でも“生活視点”が重要だ.地球環境に関する一般向けの 情報は決して少なくなく,むしろ充実していると言える.地域の身近な環境問題 を捉え,その比喩として地球環境問題を連想させる取り組みが必要だ.これにつ いてはいろいろな活動が行なわれているので,どのようなものが成果を上げてい るのか,学会が事例を取り上げて紹介し,他の活動で共有できるようにすれば良 い.この過程でマスコミを利用する方法もあろう.ただし,これには“スター” 的な人が必要かもしれない.

     木村龍治評議員 

     気象学会では住理事が最近“スター”になっていると思うが,住理事の言動に も矛盾した面を感じることがある.それは,気象学の基礎的な面を取り上げて “非常に複雑なシステムだ”と主張するときと,地球温暖化への対処の必要性を 主張するときだ.前者については気象学者としての確信を感じるが,後者の主張 は明確でない.これは地球環境問題の性格を反映していると思う.例えば,京都 議定書への取り組みについて文部科学省が広報しているプロジェクトの内容は, 決して科学的でない面もある.

     住 

     地球環境問題は“科学”を口実にした“政策”であるところに議論のギャップ がある.“政策”は先が判らずに行なっているものもあり,科学的なアプローチ とはベクトルが違う.

     木村龍治評議員 

     このような事情を踏まえた上で,気象学会としての立場を固めることが大切だ.

     近藤 

     地球環境委員会の環境シンポジウムは,最新の知見により知識的な基盤を固め ることによって,環境問題に対する理解を深めるというスタンスで行なっている. さまざまな研究も,結局“環境”につながることが多い.いろいろとアプローチ の方法があると思うがご教授頂けるとありがたい.また,現在の委員会はグロー バルな視点で活動しているが,今後は,多くの人を巻き込む内容に持っていきた いと考えている.

     廣田 

     地球環境問題について,気象協会のお立場からはどう考えておられるか.

     陳 介臣評議員 

     これは気象協会の立場ではなく,個人的な意見であることをご了解頂きたい. もともと自然を支配する法則を研究する学問に,人為的な影響を含む要因が入り 込んだことで,状況が難しくなっていると思う.“気象社会学”のような分野と 研究者が出てきた上で,気象学会の立場が決まれば良いと思う.人為的な側面か ら切り込む方法もあるだろう.
     このような状況が成熟していない段階で見切り発車することはある程度止むを 得ないが,常に社会に関わるという意思を持つことが必要だ.

     廣田 

     今回のテーマから“災害”という用語は外している.ただし,日々の天気自身 が災害に直結する面もあるので,災害の啓発も重要だ.この点は気象予報士会の 大事な仕事と思うがどうか.

     岩田 修評議員 

     現在,全国で2,200人余りの気象予報士が気象予報士会の下で活動している. その内容はテレビキャスターから現業の予報担当者、また一般民間企業まで多岐 に渡り,学校などの地域コミュニティーに出向いてセミナーや体験授業も行なっ ている.活動には子供向けのものと大人向けのものがあるが,子供向けのもので は,まず天気予報そのものから入り,防災を通じて環境を考えさせるところまで を扱っている.日々の活動から感じることは,“子供が理科に興味を持っていな い訳ではない”ということだ.こちらを向かせる努力をすれば,確実に興味を引 くことができる.
     このような活動を行なう際の問題として,予報士が最新の情報や技術に必ずし も詳しくないということが挙げられる.ここに気象学会の協力があると良い.ま た,気象学は学問としての奥行きは深いが,結果としての現象は単純明快で誰に でも体験できるものだ.中学校からでは遅い.小学校から体験授業を実施すれば 必ずこちらを向くと確信している.

     廣田 

     土木の分野と防災や気象との接点はどのようなものか.

     神田 学評議員 

     土木分野でも災害の広報活動を行なっている.気象分野の活動との接点はよく 判らないが,津波に関する情報はどちらも提供しているのではないか.横方向の 連絡がないと思う.土木では災害に関係する活動は活発だが,広報活動について は気象分野の方が充実していると思う.連携して活動すれば,知識の啓蒙も含め て効率が良くなるだろう.

     木村龍治評議員 

     例えば“堤防の決壊”は土木だけの問題ではない.降水と堤防の両方の専門家 が必要だ.問題のある堤防がどのくらいあるのかを把握する上で,どのくらいの 雨で決壊するか,また,どのような雨が降るのか,という情報が必要だ.

     神田 学評議員 

     土木分野では情報の開示に“及び腰”の面がある.

     古川 

     土木の分野と河川や気象の接点を考えるとき,例えば,災害が発生したと きの専門調査団の派遣に学会からも人を送り込んだ方が良いだろうか.

     神田 学評議員 

     それは望ましい.災害発生メカニズムの理解にもいろいろと“抜け”があり, また,必要な知識を持つ専門家が常に派遣される訳でもない.調査団の構成は重 要だ.ただし,国内災害において,裁判などの事情が関係すると調査が難しくな ることもある.

     竹内 

     実際には,横の連絡が比較的取れている分野もある.多い.私も関係して いる風関連の分野では,「風工学シンポジウム」なども開かれている.

     廣田 

     京都大学の防災研究所にも気象学会の会員がいるが,災害に関する調査・研究 成果は自然災害学会などで報告されているので,気象学会からは見えにくい面が ある.

     新野 

     災害や防災を考える上で大気現象のメカニズムは大事な要素であるが,近年は 被害調査の際には災害自身を研究している人は行っても,大気現象に興味を持っ て研究している人は行かない傾向にある.一方,気象災害の現地調査には,気象 関連では気象庁の職員が業務として派遣されている場合が多い.自然災害に重点 を置く研究では大気現象を理解しようという視点が欠けており,また,大気現象 に重点を置く研究では,現象がどういう結果をもたらすかを実体験する姿勢が欠 けている気がする.

     木村龍治評議員 

     以前は,大災害が発生したときに,大学の研究室などで調査を行っていた.

     住 

     正野重方先生の諫早豪雨調査のことだろう.

     廣田 

     “広い意味での自然現象に親しむ”という正野先生の教育理念から行なわ れたものであり,本日の最初のテーマにも通じるものだ.


    (3)気象データの流通・活用および気象予報士会と気象学会の関係について

     廣田 

     本日のテーマのうち,最初の二つは教えたり伝えたりするものであった.最後 のテーマは,学会の外で人々がどのように情報を利用するか,という議題である. 研究者からの要望や,民間におけるデータ利用等の視点からご提言を頂きたい.

     陳 介臣評議員 

     “利用するデータが誰のものか”,また,“誰のデータを誰が使うのか”とい う視点が必要だ.データを利用するときは,基本的に所有者の考えに準拠せざる を得ない.この点について,気象学会から利用法に関する見解を出してもらいた い.学会として提供できるデータには気象データだけでなく論文などの研究成果 も含まれるだろう.気象協会でも,自らのデータで外部に公開できないものがあ る.データそのものに加え,データに付随する情報を提供することや提供できる 仕組みを作ることは,学会活動として意義のあることだと思う.

     岩田 修評議員 

     気象予報士には,現業で日々の予報を行なっている者や,教育や啓蒙などの社 会活動を行なっている者がいる.予報作業のためには気象業務支援センターを通 じて有料でデータを受け取る仕組みがあり,利用ルールも明確であるが,これ以 外のデータを欲しいと思った途端に苦労することになる.  実際には,限られたデータで小学校向けの教育活動や部内の勉強会を行なって いるが,データをどこまで自由に使って良いのか判らない.天気予報のデータは 気象庁が諸元で判り易いが,環境や防災関連のデータは取り扱いが難しい.気象 学会がこの辺りの切り分けや問い合わせ窓口としての対応を行なえば大変便利で あり,情報の流通が整理されると思う.

     丸山健人評議員 

     実際には,入手に手間のかからないすぐ使えそうなデータだけを使ってきた. また,気象衛星の画像を利用したいときは,気象衛星センターに個別に依頼する などの方法による.出所を明記すれば大抵の場合はデータの利用に問題はなかっ た.

     坪田 

     少し前まではデータ利用に不自由を感じていたが,最近では気象庁が提供対象 を拡大したので助かっている.特に“アメダス”データの公開が大きかった.

     廣田 

     気象データと“ビジネス”との接点を考えるとき,データ活用の障壁になっ ているものは何か.

     陳 介臣評議員 

     気象庁がホームページで情報をどんどん出すと,我々は撤退せざるを得ない (笑).我々の役目は,基礎的なデータに付加価値をつけることであり,次々と 新しい提案を出していかなくてはならない.国の事業と民間事業の切り分けは永 遠のテーマだ.データが安く流通するのに越したことはないが,それで活力がな くなる分野が多くなるようでは困る.

     住 

     データ利用に関する考え方の提言は学会の役目だと思う.データのアーカ イブも大きな問題である.保存場所の確保などのインフラの根幹に関わることは 学会が提起すべきだ.ライブラリの整備やデータアクセスの方法などもこれに含 まれる.

     岩田 修評議員 

     データアクセスの利便性を向上させ,利用方法や注意点,禁止事項などを合わ せて公開するのが望ましい.学会にはこのような仕組みの窓口となってもらいた い.

     古川 

     現在のデータ利用体系は,気象業務支援センター設立の経緯に関わっている. 米国は政府主導で基礎データを全面公開しており,日本でも今後のデータ提供形 態を検討する必要があるかもしれない.

     住 

     最近は著作権に関わる事情が難しくなっている.学会としてもいろいろ言うべ きことがある.

     廣田 

     データのアーカイブについては,研究者から見たデータの利用法や必要性に基 づく主張も必要だ.学会及び学会の構成員全体の役目である.ここで,気象予報 士会と気象学会との関係についてお聞きしたい.二年前の筑波の学会では気象予 報士に関するセッションが開かれ,活発な議論があったと記憶している.しかし, 気象学会に入っておられる気象予報士の方は三分の一に満たない.今後,どのよ うにしたいとお考えか.

     岩田 修評議員 

     大問題だ.周囲に学会に入っている人が少ないとなかなか入会しないし,地方 ほど入会者が少ない.これは支部の活動の実態を反映した面もある.この点につ いて二つ提言する.一つ目は,地方支部活動の活性化である.気象学会の地方支 部や地方気象台など気象中枢と連携した活動を頻繁に実施したい.加えて,地方 自治体の防災担当者との連携も強化したいが,担当者が短期間で転勤する事情も あり,時間をかけた取り組みが難しい.防災担当者との関係を築こうにも,防災 の“先生”がいない.気象学会のお知恵を借りながらこれらを克服して支部レベ ルの活動を高めたいと思う.
     二つ目は,学会ホームページとのリンクである.学会の予定,特に“教育と普 及”に関連した情報の掲載が効果的だと思う.いろいろなイベント情報で相互リ ンクを張り,互いの活動を知る“きっかけ”としたい.これにより学会のホーム ページを見る機会を増やし,入会者数を倍にしたいと考えている.

     廣田 

     学会としても可能な限りご提言に応えたい.

     住 

     お互い相手の状況が判っていないところが多い.

     斎藤 

     最近の気象学会員の減少について,学会監事の立場から,気象予報士会会員を 取り込む努力をして欲しいと申し上げたことがある.予報士会からの提言を待つ だけではなく,気象学会の側から積極的に働きかけることも必要だ.

     岩田 修評議員 

     日本気象予報士会のホームページには充分な容量があるので,いろいろと対応 できる.気象学会用のページを作り,意見や質問を書き込めるようにすることも 可能だろう.

     伊藤 

     支部活動の幅の広げ方について大変参考になった.学会として活動の幅を広げ ることにより,小中高レベルの気象知識の普及の面でも貢献できるようになると 思う.

     古川 

     “教育と普及委員会”も気象予報士の方にご参加頂き,活動の幅を拡げている ところである.

     岩田 修評議員 

     (席上配付資料:日本気象予報士会会報,てんきすと,第33号,2005年2月) 毎号、最後のページに地方支部の活動を載せてある.今後このような活動で気象 学会の地方支部活動と連携を深めたい.

     田中 

     気象学会の春季大会の日程に土・日曜日を含めて参加し易くしている.気象予 報士会の機関紙でも気象学会の大会の宣伝を載せて頂きたい.

     岩田 修評議員 

     5月に気象予報士会の総会があるので,それまでにいろいろなレベルで学会と の交流を深めたい.

     古川 

     “ビジネス”としての気象学会との連携について,気象予報士会からの要望は あるか.

     岩田 修評議員 

     業務として予報を行なう者とテレビキャスターとでは立場が違う.業務で予報 を行なう者は学会との関連はかなりあるだろう.仕事の情報という面で,以前は “気象”という雑誌があったが,現在は“天気”だけとなった.いきなり“天気” ではレベルが高いので,間を埋める雑誌があれば良いと思う.

     木田 

     その要望は以前からあった.一旦雑誌を刊行すると継続する責任が生じるので 慎重になる面もある.気象予報士会のご協力を得ながら考えを深めていきたい.

     廣田 

     大変参考になった.ご提言は“教育”の問題とそれぞれ深く関連している.こ こまでにお話頂いた“動機付け”の問題や,天気予報から防災を通じて環境問題 へと興味を発展させる等の取り組みに加えて,“自然への憧れ”も大きな要素で ある.知識の橋渡しとしての気象学の成果を如何に伝えるかが重要な点だ.

     木村龍治評議員 

     気象学会の大会は“動機付け”となる良い機会だと思う.ただ,最近の大会は 発表件数が非常に多く,1件あたりの時間が短いので,まるで“ビデオの早回し” のようだ.

     住 

     多くの会員に発表機会を与えるという側面もあり,難しい問題だ.他の学会で は“チュートリアル・セッション”がある.気象学会でも実施してはどうか.学 会財政を含めて検討が必要だと思う.

     木村龍治評議員 

     地球惑星合同大会には“チュートリアル・セッション”がある.

     住 

     会場確保の問題もある.多くの発表会場を使ってよければ検討の余地はある. 学会に対するニーズも多様化しているので,今後の大きな課題だ.

     廣田 

     現在の大会では“公開シンポジウム”がその役目に当るのではないか.

     住 

     学会の前後に行なわれる“研究会”が該当すると思う.これらをもっと組織化 して実施することも検討する必要がある.

     廣田 

     本日の三つのテーマはお互いに関連しあっている.これらについて貴重なご意 見を頂いた.別の内容でも良いが,他に御意見があればどうぞ.

     竹内 

     私が理科好きになった理由には,先生に依るところが大きいと思う.先生には 優秀な人材が必要であり,魅力的な講義で弟子が育つ.気象と限らず対象を好き にさせることが一番大事だ.ついで,環境や防災を考えるとき,気象分野の人間 がもっと広く役割を果たさなくてはならないと思う.この分野では特に社会との 接点をよく考えて行動することが必要である.気象には地球規模現象から局地現 象までいろいろなスケールがあるが,我々はそれらの取り扱いに慣れており,ま た天気予報など社会の接触にも深い経験を持っているからである.今後とも自分 の専門分野の幅を広げながら社会と接していくことが必要だろう.



  5. 欠席者の書面による意見(事務局による要旨抜粋)

     上野健爾評議員 

     新しい中教審で,国語や理数科目の学習指導要領の改訂が議論され始めた.そ のこと自体は歓迎すべきことだが,対症療法的な対応だけでは事態を悪化させる 危険性もある.子供たちの体験について最近考えていることを記したい.
     最近の大学生や大学院生とのセミナーで,基本的な体験の不足を感じることが 多い.数学が面白いと思ったり,理論を美しいと思う学生が激減している.この ため関心の領域を自ら拡げることなく,与えられたことだけを行なっている例が 多い.根源的なところで若者が変わってきているのではないかと心配している. テレビゲームなどのヴァーチャルな世界の遊びには夢中になっても,自然の中で 遊んだり友達と工夫をしながら遊び,何かに感動するような経験が殆んど無いよ うだ.
     レクタス幼児教育研究所を主催されている正司昌子氏によれば,幼稚園児に最 近異変が起こっているそうである.幼児たちが描いた絵を見ると,プールのよう な川や,腕の無い子供など,不思議としか言い様のないものがあるという(同著 「幼児の知力がぐんぐん伸びる本」情報センター出版局).毎日見ているものを 全体として描くことができず,部分のみが詳しく描かれている.こうした異変は 最近あちこちで報告されていると聞く.
     地動説を知らない子供の割合が多いことが話題になったが,そもそも朝日や夕 日の光景をじっくり見たことのある子供がどれほどいるだろうか.教育の問題以 前に日本の社会のあり方に問題があるように思われる.
     アニメ作家の宮崎駿氏も,自らの作品を販売する自己矛盾を感じながらも,ア ニメ産業を安易に称揚する日本社会への怒りや,子供がバランスを持って育つ空 間の少なさを訴えている.(元の記事は日本経済新聞,2002年2月20日,“文化 往来”に収録)



  6. 総合討論

     岩崎 

     気候変動には“化学”や“生物”など多様な切り口がある.気象学会は適切に 啓蒙しているか.

     神田 学評議員 

     “天気”は投稿された論文を基本的に排除しない.境界領域まで拡げた研究は やりにくい面が多いが,そのようなものも受け入れてくれる寛容さがある.この 体質は維持してもらいたい.

     住 

     基本的な理論を教えることと境界領域を取り扱うこととケース・バイ・ケース であろう.

     神田 学評議員 

     基本的な理論を教えることは勿論大事だが,他の事柄が余分に扱われては駄目だ.必要なものは必修の形で取り入れていかなければならない.

     住 

     工学の分野ではその辺りの柔軟性は高いのではないか.

     神田 学評議員 

     ケース・バイ・ケースであるが,必要なものを潰さない素地は残しておかなけ ればならない.

     古川 

     体験学習の一環として,例えば,気象学会が“夏の学校”を学会だけで実施し ようとすると幅の狭いものになり,実現性が乏しい.スポンサーのアレンジも含 め,内容や予算の面からアイディアが必要だ.

     木村龍治評議員 

     先ほどお話したNPOの予算は文部科学省の科学研究費を期待している.

     住 

     最近は,理科教育に対する予算は比較的出ていると思う.ただ,日本では具体 的カリキュラム等の“ノウハウ”が弱い.

     木田 

     “理科離れ”は実は“数学離れ”であり“国語離れ”でもある.子供が“勉強 離れ”しているのが実情だ.理科だけに的を絞ると全体を見失いかねない.もっ と広い視点での対応が必要だ.

     坪田 

     このような状況を“知離れ”と言うようだ.最近は法学部の人気が高く,理工 にはなかなか進もうとしない.文科系出身者に仕事で使われる姿を想像したり, メーカーの不況などを見ているのだと思う.理科の面白いことを示すのは重要な ことだが,基本的なものの考え方を身に付けさせ,将来それを応用できるような 指導をしたい.

     木田 

    気象を題材にしたアウトリーチ活動は広がりがあって良いと思うが.

     岩田 修評議員 

     子供は興味があれば入っていく.“きっかけ”があれば興味の対象は広がる. 気象はその起爆剤になると思う.

     近藤 

     小学校の体験授業はどのような時間でおこなっているのか.“ゆとり教育”の 枠か.

     岩田 修評議員 

     “ゆとり教育”の時間を利用し,一時間程度で一通りの内容を体験させる.実 際には,絵を描いたりする作業から始め,自分で予報を出してそれを講評すると ころまで行なう.ただ,本来の理科カリキュラムの中で行なうのは難しいので, “ゆとり教育”の題材として売り込んでいるのが現状である.

     廣田 

     何れのご意見も社会全体の大問題であった.子供の多様化があると思うが,そ の評価の方法についても考えていかなくてはならない.教育は“得意技”を伸ば すことも大事だ.教える側もプロである必要がある.我々も気象学会の立場から, 責任を持ってこれらの問題に対処していかなければならない.



  7. 閉会の挨拶(廣田理事長)

       今日は貴重なご意見・ご提言を頂いた.それぞれの問題に対する気象学会とし ての取り組みについて,来年の評議員会で示したいと考えている.
       本日のご発言の要点をまとめた資料を作り,目を通して頂いた後に学会機関誌 “天気”に掲載したい.




日本気象学会ホームページへ