第33期第2回評議員会議事録

日 時

会 場

出席者(敬称略)

合計24名.

議事

  1. 開会の挨拶(廣田理事長)
  2. 第2回評議員会の議題趣旨の説明
    第33期気象学会評議員会では,
    (1)中学・高校・大学教養課程における理数教育について,
    (2)地球環境問題の啓発活動について,
    (3)気象データの流通・活用および気象予報士会と気象学会の関係につい て,
    という三つの議題を取り上げた.昨年の第1回評議員会では,評議員・名誉会員各位から貴重なご提言をいただ いた.本日の第2回評議員会では,学会の関連委員会からご提言に対する学会の 受け止め方,対応する活動内容の現状について回答を提示し,それに対して評議 員・名誉会員各位から更なるご提言・示唆をいただいて,これらの問題に関する 議論を一層深めてゆくことを目的としたい.

  3. 議題ごとの討議
    (1)中学・高校・大学教養課程における理数教育について

    教育と普及委員会:古川委員長

    第1回評議員会でいただいたご提言に対し,教育と普及委員会の取り組みを3点 回答する.
    まず気象予報士会と気象学会との関係について回答する.気象予報士試験の合格 者は2005年11月1日現在で5,600人を超えており,そのうち約2,200人が日本気象 予報士会に所属している.当委員会では,活動の幅を広げるため,2003年から予 報士会の会員に委員を委嘱しているほか,夏季大学の企画や実施についても予報 士会のご支援を受けている.今後も研究会の共催やホームページの相互リンクな ど連携を強化したい.更に気象学の裾野を広げる一環として,新しいイベントや 雑誌の創設を検討したい.試みとして,この4月には喫茶店を借り切って20〜30 名程度を対象に気象の話題を提供する“サイエンスカフェ”を企画しており,気 象予報士会でご準備いただいている.
    次に地球環境問題に対する啓発について回答する.これは次の議題にも関係する ので,そこでもご議論いただきたい.当委員会が開催する夏季大学は気象学が主 なテーマだが,今後は地球環境問題も取り上げたい.また関連官庁,関連学会並 びに気象予報士会等と連携し,気象災害及び防災に関する啓発や広報活動を強化 していきたい.これらの取り組みの一環として,このほど気象学会のホームペー ジに教育用のウェブサイトを立ち上げた.今後内容の充実を図っていく.
    最後は中学・高校・大学教養課程における理科教育についてである.現在気象学 会の会員数は約4,000人で,漸減傾向にある.学校教育における“理科離れ”が 言われて久しいが,気象学会が健全な活動を続けていくためには,小・中・高校 及び大学を通じた理科教育の充実が必要である.しかし学会単独の活動には限界 があるので,所属している日本地球惑星科学連合の“教育問題検討委員会”を中 心に理科教育の在り方を検討しており,提言や文部科学省への申し入れ等を行っ てきた.今後も理科カリキュラムの検討を行って,生徒教師共に“分かりやすい 理科”の構築を目指すと共に,同連合の公開セッションへの参加等を通じて理科 教育における気象学の重要性を広報したい.

     廣田 

    この議題については,日頃から気象予報士会で気象教育活動に尽力されてい る岩田評議員と木村評議員にまずお話を伺いたい.

     岩田 修評議員 

    気象予報士会では,教育と普及委員会を通じて教育関連の活動を行ってきた.先 程お話があった“サイエンスカフェ”は,2ヶ月に1回程度開催する予定である. 難しい内容を簡単に伝えることが目的だが,これがなかなか難しい.地道だが効 果のある取り組みと考えている.今後も教育と普及委員会を通じて活動を続けて いきたい.
    第1回評議員会から予報士会内の状況が変わった点がある.まず,気象学会大会 での発表を目的とした研究会が発足した.防災中心の発表を考えている.また長 期予報資料の利用のための本格的な検討を始めた.長期予報は社会活動と深く関 係しているが,情報の利用・活用についての周知は十分ではない.例えば,この 冬の予報は当初は暖冬予想だったが,結局記録的な寒冬になった.しかし,シナ リオが変わったことについての報道はなく,外れたという側面ばかりが強調され ている.気象予報士会としてしっかり勉強して発信していきたい.

     木村龍治評議員 

    私は気象予報士会の初代会長だったが,現在は顧問を務めている.会員数も増え て21の地方支部を持つなど組織も拡充し,機関紙“てんきすと”の内容も充実し ている.気象観測等の活動をしているグループもあり,総じて会のモーティベー ションは高い.ただし気象学会との関係が十分とは言い難い.予報士の最近の傾 向として,天気図にこだわり過ぎの感がある.気象にはメソスケール現象など天 気図に表現されないものも多いので,もう少しバランスの取れた物の見方をする べきだ.このような点で,気象学会との情報交換が有効だと思う.ただ実際にど のように交流すれば良いかは十分に判っていない.

     廣田 

    気象予報士会と気象学会とは本来深い関係にある筈だが,接点がうまくつながっ ていないようだ.そのような中で,2005年度秋の奨励賞を関西気象予報士会が受 賞した.このことについて,予報士会側はどのように受け止めているか.

     岩田 修評議員 

    関西支部の活動を評価いただき,ありがとうございます.我々はこのような教育 活動をボランティアで行ってきた.名古屋や福岡でも同様の取り組みを行ってい る.視野が狭くならないよう,活動をオープンにしていきたいと考えている.

     廣田 

    日本気象協会で長く活躍された松本名誉会員にコメントをいただきたい.

     松本 

    職を離れて長いので昔の話でご勘弁願いたい.当時に努力したこととして,職員 を米国に派遣して勉強させたことがある.このような取り組みが,最近のいろい ろな成果につながっていると思う.

     山元 

    気象予報士会の機関紙“てんきすと”は,2ヶ月に1回の発行である.新しい雑 誌の創設を考えるのは結構だが,情報という点では,気象友の会の会報や気象業 務支援センターの“気象新聞”,気象学会の“天気”が,それぞれ月1回発行さ れている.いろいろ特徴はあるが,気象学会がこの辺りを統括すれば会員増に結 びつくのではないか.また気象予報士会の勉強熱心は良いが,本では読めない知 恵を経験者から引き出すことも大切だと思う.

     竹内 

    “サイエンスカフェ”について,もう少し詳しくお聞かせ願いたい.

     岩田 修評議員

    これまで気象関係でいろいろな会合に参加しているが,ネクタイを締めて行くよ うな会合が多いので,リラックスして議論できる場が欲しいと思い企画した.第 1回目の講師は倉嶋厚さんの予定である.

     古川 

    “サイエンスカフェ”は前述のように今年からの新しい企画であり,企画や準備 を気象予報士会にお願いしている.4月に第1回を開催する.他学会の成功例も 耳にするので,気象学会も是非成功させたい.

     木田 

    物理学会の記事を目にしたことがある.

     岩田 修評議員 

     最近はかなりトレンドのようだ.

     廣田 

    最初の議題は中学・高校・大学教養課程における理数教育についてだが,ここで は理科や地学に限定せず“理数”という言葉を使っている.数学教育がご専門の 上野評議員に,普段お感じになっていることをお 伺いしたい.

     上野健爾評議員 

    理数教育には日本人の感性が関係している.物に感動するという情緒的な側面が あり,論理だけでは解決し難い.最近は子供が根本を突き詰めて考える機会が少 ない.いろいろな情報が次々と入ってきて,大切なものが残りにくくなっている.
    理数教育の取り組みの一環として“スーパー・サイエンス・ハイスクール”が各 都道府県の2〜3の高等学校で実施されているが,理科と数学がばらばらに行わ れている状況だ.理科の中でも物理や化学,地学等の連携が取れていない.理科 を学ぶことの感動が消えて,手続きの習得に終始している.第1回評議員会の資 料にある“子供の奇妙な絵”も自然体験のなさが影響したものだ.文部科学省は 自然体験の重要性を強調するが,実際にそれが生かされているとは言えない.自 分の考えで物事を達成すれば,別の場面にも応用できる.気象学会には,自然体 験の意味やそれが大切である理由を提供するモデル作りと,それらの教育現場へ の提供を行っていただきたい.

     廣田 

    数学の教育現場で苦労された点をお聞かせいただきたい.

     上野健爾評議員 

    入学試験と直結すると他のことを考える余裕がなくなり,1問を長く考えること もない.一方,入試に関係ない題材を取り上げると,生徒は大きな興味を示す. まず入試という重圧を和らげないと駄目だ.

     廣田 

    長年教育関係の仕事をされてきた丸山評議員にもコメントをいただきたい.

     丸山健人評議員 

    地学は暗記で点が取れるので入試の受験者は多い.そういった面は頭に入れてお く必要がある.筑波移転直後の気象研究所に勤務していたころ,高層気象台のご 協力を得てラジオゾンデ観測を見学したことがある.研究云々以前に気象業務の 一端に触れることで,その分野のいろいろな面を知ることができる.研究発表の ための勉強ばかりでは駄目だ.このような取り組みを正規の授業で行うことは難 しく,全てボランティアで行った.上野評議員のお話にあったように,自分で課 題を解いた感激は忘れられないものだ.

     廣田 

    上野評議員と丸山評議員のご意見の関連性として,論理的な発想と情緒的な発想 のつながりを如何に考えるかという点がある.教育において,歳時記的な天気と 数値的・流体的な気象を如何につなげるかが難しい問題だ.

     古川 

    自然体験を取り上げて欲しいとの意見は理解できるが,高等学校では大学入試に 出ないものは勉強しない傾向にある.現在の教育体系の中の矛盾を突破する方策 が必要だ.

     新野 

    私の職場(東京大学海洋研究所)の隣に中・高校が併設されており,今年の2月 に「積乱雲に伴う諸現象とその気候に果たす役割」について話をした.入試に関 係ないことでも興味を持っている生徒はたくさんいるという印象を持った.気象 学会として,そのような生徒に如何に勉強させるかを考える必要がある.

     廣田 

    教育は地球環境問題の啓発とも不可分の関係にあるので,教育と普及委員会から の回答も含めて,次の議題に移ることとしたい.


    (2)地球環境問題の啓発活動について

    地球環境委員会:近藤委員長;代理:木田理事

    近藤理事が外国出張中のため私から回答します.
    気象学が包含する研究領域は,地球規模の環境問題と密接に結びついており,他 分野と接点が多い.気象学会における環境問題研究の進展は,他分野との結びつ きを強める点で重要である.社会と深く関わる分野における研究活動は,環境問 題の理解や解決に貢献しうるものである.
    これまでの成果を公表するための取り組みのひとつとして,2004年度春季大会中 に公開講演会「地球温暖化と異常気象」を開催し,一般も含め多数の方にご参加 いただいた.また2005年度には公開シンポジウム「地球環境の進化と気候変動」 を開催した.今後も有効な活動を行っていきたい.

     木田 

    学会として地球環境問題を正面から取り上げたことは少なく,最近の取り組みで ある.専門家の報告も交えながら一般への普及を図っている.2006年度春季大会 で,各分野の活動をまとめた専門分科会を開催する.気象学会が環境問題を“積 極的に”取り上げないことに批判もあるが,その理由は,“論理”を大事にして いるからだ.環境問題は議論が沸騰する傾向があり,迎合していては社会への貢 献にならない.情緒に流されず,何が判っていないかを知っておく必要がある. これが大事な視点だ.環境問題に関する啓発を進めつつ研究の論理性を示すこと が学会のあるべき姿だ.

     廣田 

    地球環境問題には,自然科学的側面と一般社会から見た実際的側面がある.先の 議題では,古川理事から防災に対する啓発活動の話もあった.第1回評議員会で は,土木がご専門の神田評議員から,エンジニアリング或いは市民の立場からの 防災の考え方に関するご提言があった.これらの点について陳評議員にご意見を 伺いたい.

      陳 介臣評議員 

    この問題は,“地球環境”というと社会的側面になり,“気候変動”というと気 象学的側面になる.物事には判ることと判らないこととの境目があり,社会的関 心事は境目の一歩先を求めることが多い.では何も言えないのかと言うとそうで はない.気象学会は,境目の先にどういう対応があるかについて発信すべきだ. それによって社会的行動を促すことができる.学会は発信すべき情報について勉 強する必要がある.勉強せずに風潮で物を言うのは危険だ.その反面,ただ警告 するばかりでなく学問としての気象の面白さを伝える必要もあり,両者のバラン スが大切だ.どういった視点で環境問題に関わるかを考える必要がある.

     廣田 

    気候や環境の分野において,気象学会でリーダーシップを発揮された山元名誉会 員に,最近の環境問題に対する感想をお聞きしたい.

     山元 

    10年程前に気象庁主催の気候講演会で,地球温暖化問題について話をした.5年 前に神戸でも話す機会があった.気候問題に対する一般の受け取り方は複雑であ る.米国でもハリケーンの勢力が今後増大する旨の報告があったが,反応はさま ざまだ.このような国際社会の情勢も頭に入れながら,一般向けの行動を考える べきだ.気候問題に関する政府間パネル(IPCC)の報告を見ても,地球全体での 気温変動や温暖化予測の誤差など,学問的にも研究すべき課題が多い.また防災 計画も十分に進んでいるとは言えない.まずは学術的な研究を進めるべきだろう.

     廣田 

    原理と実際の仕分けは,学会としてしっかり取り組んで行かなければならない課題だ.

     木村龍治評議員 

    木田理事の“論理を大事にする”という趣旨に賛同する.これが学問の基本的な 姿勢だ.気象学会にはこの点を貫いていただきたい.世の中には奇妙な説もある が,それらを無視するかそれとも反論するかについて,私は言えないことは言わ ない方が良いと思う.“我関せず”という態度を取るべきだ.

     丸山健人評議員 

    それでは駄目だ(笑).個人の資格で“天気”の“会員の広場”に解説を出すと いう方法もある.反論があれば当然対応する.何も言わないのは良くない.

     木田 

    大いに議論すべきということだろう.議論の状況を包括的に見る必要がある.

     木村龍治評議員 

    気候変動にはいろいろな要素があるが,社会的な人為変化のみが注目されてイメー ジが作られている.これは誤りだ.気候には常に自然変動がある.全地球的スケー ルや大陸・海洋規模のスケール,更に地域的スケールの変動があり,これらを正 しく認識することが基本だ.また時間スケールの長い変動は,論理でしか把握で きない.素粒子と同じく,自分の感覚で捉えられないものは論理体系で認識する しかない.それが“サイエンス”である筈だが,そういう理解になっていない.

     廣田  

    新聞や雑誌ではなく教育の場で気候変動を議論するときの構え方はどうあるべき か.例えば最近の理科の教科書には多くのキーワードが並んでいるが,肝心なと ころを教えていないように思う.

     木村龍治評議員 

    状況が判っている気象学会が情報を発信すべきだ.また気候変動の説明において シミュレーションを信頼し過ぎる最近の風潮には疑問がある.地球温暖化につい ての計算結果は十分に吟味されていない.いろいろな要素が混同されている.気 象学会もいろいろな情報を混同しているのではないか.

     木田 

    個人的には同感だ.シミュレーションの取り扱いは,最近特に難しくなってきた 問題のひとつだ.シミュレーションの有用性は物事を再現できることだが,結果 の検証も重要な課題である.地球温暖化の計算は,その結果如何できわどい問題 を扱う領域に入ってきた.21世紀は大いに悩むようになるだろう.結果の検証は 慎重にあるべきだ.すぐにアイディアはないが,お知恵を拝借したい.過去をしっ かり検証して論理を詰めることは,シミュレーション研究と両輪である.

     岩崎 

    「論理的でないこと言ってはいけない」というのはその通りだ.しかし,社会の 求めに応じて,論理的な答えを求める努力が必要だ.温暖化でハリケーンの強度 がどうなるかについての答えもまだ出ていない.問題に対するアプローチを十分 議論することは学会の大事な役目だ.シミュレーションは貧弱でも精密でも同じ ように何らかの答えは出る.結果の信頼性を議論することが学会の役目だ.

     斉藤 

    シミュレーションに対する最近の反応としては,スーパーコンピュータによる計 算への過度の信用と,シミュレーションによる予測への極端な不信という2種類 のものがあるように感じられる.我々は自然のプロセスを全て理解してシミュレー ションに完全な形で取り込めている訳ではないのは事実だが,中には,「週間予 報や季節予報が当たらないのに,100年後の気候が判る訳がない」という不適当 な理解で批判する人もいる.初期値問題と気候シミュレーションは違うといった, 現在の知識の中できちんと説明できることは説明する責任がある.

     廣田 

    「目先の予報が当たらないのに,100年先が判る訳がない」というのは,理屈が 通っているように聞こえるが,これのどこが誤りなのかを一般社会に正しく理解 させるのは大変だ.気象予報士会で長期予報資料の活用の検討を始めたことは, 正にこの点に踏み込んだものだと思う.

     岩田 修評議員 

    “予報士会がなぜ長期予報か”については,自前で計算できないので,情報の利 用・活用というユーザー側の発想である.日頃の学校への教育活動では,子供達 から「将来本当に暑くなるのか」必ず聞かれる.学問的にまだ判っていない世界 があり,またいろいろな時間スケールに分けて物事を考えたりするが,子供達に はこのような区分けはなく,将来のことも“同じ天気”として興味を持っている. これらに対して何らかの答えを示したい.学会の立場では言い辛いことでも,予 報士会の立場では言えることもある.我々の活動を巧く利用していただければと 思う.長い目で取り組んでいきたい.

     廣田  

    数学の分野におけるシミュレーション研究の現状はどうか.

     上野健爾評議員 

    最近は数学分野でもシミュレーションが増えているが,プログラムが正しいか, 手続きに矛盾がないか等のチェックが十分ではない.結果が一人歩きする面もあ る.計算に用いたパラメータや計算過程の情報をきちんと管理すべきだ.これま での気候変動シミュレーションの結果をまとめて公表するのは気象学会の役目だ と思う.“ここまでは判っている”という情報をウェブで公開する方法もあるだ ろう.

     山元 

    シミュレーションの検証は難しい問題だ.都市化の影響や気象測器の変遷もあり, きちんとした検証は難しい.「シミュレーションはフィクションだ」と言って怒 られたことがある.現象の一面を突いていると言えるためには,結果の信頼性を きちんと押さえなくてはならない.そのために,地味な作業だが,信頼できる過 去のデータセットの作成をお願いしたい.地上観測データは100年以上の蓄積が あるが,ラジオゾンデ等についても測器の変遷を含めたデータ管理が必要だ.特 に上層のデータは信頼性をきちんと把握する必要がある.

     新野 

    米国の学会は,社会問題に対する公式声明を出している.同様な対応ができれば 良い.無言でいるのではなく,“ここまでは言う”という線をきちんと考えるべ きだ.

     木田 

    公式声明という点では,気象学会の地球環境問題委員会が,公開シンポジウムの 開催やパンフレットの作成を行っている.これも公式声明のひとつの形だろう. 社会に向けてどう表現して行くか,今後のスタイルについて改めて考えたい.

     伊藤 

    斉藤監事の100年先の予報の批判のお話で思い出したが,3月の物理学会で“ニ セ科学批判”のシンポジウムが開催される予定で,その世話人の話を聞く機会が あった.その話では,「水に感謝すると“良い”水になり,水を粗末に扱うと “悪い”水になる.我々の身体は水でできているので,水に感謝しよう」という 内容が小学校の道徳教材に入っているそうだ.温暖化でも似たような議論,す なわち明らかに非科学的な議論があるのではないか.無視するのではなく,きち んと批判することが大切だ.問題を公開してマスコミを利用する方法もある.こ のような対応が,最終的な声明の基礎になっていくのだと思う.

     岩崎 

    山元名誉会員のお話にあった過去のデータセット整備に関連して,気象庁と電力 中央研究所では,過去 25年間の再解析を実施中である.これは最新の数値予報 技術を利用し,過去の観測データを用いて25年間の大気変動を再現するものであ り,何度も計算をやり直して,より良い再現結果を得る努力が続いている.気象 学会としてこのような取り組みを支えたい.

    竹内 

    諸外国でもそのような取り組みはあるか.

     岩崎 

    長期再解析は,欧州中期予報センター(ECMWF)や米国環境予測センター(NCEP) などがすでに実施している.日本の再解析はそれに続くものだ.各々の再解析は それぞれ違う特徴を持っている.過去の再現の精度を向上させることは大事な課 題だ.

     廣田 

    伊藤理事の“ニセ科学”のお話は恐ろしい内容を含んでいる.情報は発信者の肩 書きによる“権威付け”の影響がある.肩書きで物を言うときは責任を伴うとい うことだが,肩書きのある情報が全て正しいとは限らない.肩書きという権威が ない状態で物事を伝えるのは難しいが,中身をきちんと伝える努力が必要だ.

     伊藤 

    権威付けられても問題のない情報はどんどん発言していく必要がある.

     廣田 

    環境問題はあらゆる側面を含んでいる.我々も真剣に取り組む必要があるという ことだろう.

    (3)気象データの流通・活用および気象予報士会と気象学会の関係について

    気象集誌編集委員会:岩崎委員長

    衛星観測や数値予報等の気象データはその種類も量も急速に増加しており,研究 や業務におけるデータの高度利用は重要な課題である.気象学会は気象データの 公開と利用に関する会員の活動を積極的に支援する.気象学会は2005年7月26日 付で,気象庁に「研究用気象データの活用に関する要望書」を提出し,これによ り気象庁の保有するさまざまな気象データの公開が包括的に許可された.ただし 大量のデータを利用する側の管理体制が十分ではないので,気象学会はソフト・ ハード両面で受け皿の整備を検討する.利用できるデータは現在のところ研究目 的に限られているが,今後は実利用を含めた応用の最前線を視野に入れながら, データポリシーを適時適切に考えて会員に対する支援を進める.

     廣田 

    第1回評議員会では,気象データの利用についていろいろな立場からご意見をい ただいた.陳評議員には気象協会の立場,岩田評議員には予報現場の立場,そし て丸山評議員には教育現場の視点から提言をいただいた.岩田評議員からは,研 究用データを活用するための環境の整備に,学会の役割が重要であるとのご意見 もいただいた.今回の回答に対してもコメントをいただきたい.

     丸山健人評議員 

    データの利用環境が構築されつつあることを,気象学会が宣伝すれば良いと思う. お役所的にならず,データが有効に使われた例などを示してもらいたい.

     陳 介臣評議員 

    気象庁が研究用データの公開を包括的に許可したのは英断だ.次は学会が,デー タを受け取った後の対応をきちんと議論しなければならない.研究的な利用が徐々 に進んでいるようだが,受け側の責任で技術的・経費的な面に対処する必要があ る.これらについては,基本的に気象学会を中心にやって行こうということなの で,データの重要度を認識して流通させる仕組みが構築されると良いと思う.

     岩田 修評議員 

    気象予報士会では,会員の技能研鑽や研究発表の目的に限り,気象業務支援セン ターから購入したデータを無料で配布する環境を作っている.データ利用に関す るアンケート調査によれば,数値モデルの格子点値についても購入の要望があっ た.大学等の研究機関への提供とは異なる視点,例えば“生活視点”のような研 究利用も出てくるだろう.独自の動きもあるが,協力・連動して訴えかけたい. 私はもともとIT業界の人間だが,国のデータは学術目的なら無料が常識だ.なぜ 気象データは有料なのか.データ提供の前提(発想)を変えた 方が良いと思う.
    富士山や筑波山など,観測所の廃止や無人化などを最近よく耳にするが,大学と 共同した活動でデータが利用できるようになる場合もあり,共同戦線が有効だ. 気象庁にとってデータを提供し易い環境を我々が作って行くことも重要だと思う.

    廣田 

    気象庁への要望書に基づくデータ提供はまだ限定された内容であり,努力すべき 事項が多々ある.衛星観測データの活用についても課題が多い.

     中村(健) 

    地球観測衛星データは基本的に無料だ.宇宙航空研究開発機構(JAXA)も,全て のデータを無料で提供する方向で検討を進めている.ただ,衛星データは容量が 膨大であり,今後増大する一方なので,利用については決して楽観できない.デー タを使い易くする環境の構築が課題だ.

     廣田 

    衛星観測データの活用について気象学会が努力すべきことは何か.

     中村(健) 

    どのような配布形態を望むかをユーザーに問いかけることだ.JAXAも要望を待っ ている.

     古川 

    平成8年に,気象業務支援センター経由で気象庁のデータ提供する方針が決まっ た.このとき,データ料は取らないが,受益者による通信料の経費負担が決まっ た.完全に無料にするのであれば,その経費を支える仕組みが必要だ.米国海洋 大気庁(NOAA)は国家組織として種々のユーザーに対応をしていると聞いている. 日本の気象データ流通は支援センターを使う独特のスキームなので,無料化は難 しい.もちろん,研究・学術レベルのデータ利用については,学会や大学・研究 所での議論が必要だ.

     中村(健) 

    米国航空宇宙局(NASA)のデータ提供は“OPEN POLICY”であり,他の機関がこ れに追随している.お手本はある.

     田中 

    15年位前から気象庁とデータ提供について交渉してきた.米国はその当時から無 料だった.米国には政府のスポンサー機関があり,大学のシステムを通じてリア ルタイムでデータが流れている.日本はそのような流通形態を認めてこなかった が,その後道が開け,気象業務支援センターからデータが得られるようになった. これは素晴らしいことだ.今回の提供についても,研究者のみの優遇では矛盾が ある.これまで総論では提供賛成だが,各論では詰め切れないという状況の繰り 返しだった.しかし徐々に使い易くなってきている.現在では,気象業務支援セ ンターからデータが外に出れば,商業利用でない限り使用は無料である.

     陳 介臣評議員  

    気象協会も受益者による経費負担で気象業務支援センターからデータを購入して いる.今回これとは別に,気象学会経由で研究データの利用の道が開かれた.研 究以外の現場に不公平感があるならば,学会がコントロールするしかないだろう. 気象業務支援センターを通じたデータ提供について,例えば税金で経費を賄うこ とで無料にする考え方もあろうが,過去の経緯も踏まえて議論する必要がある.

    廣田 

    気象庁に対して提供を申し入れているデータは,当面は研究利用に限定している. 研究より外の分野に対してどのように働きかけるかについては,議論が煮詰まっ ていない. 4.自由討論 (廣田)本日の議題について一通り議論した.ここからは,議題にとらわれず,学会の活動についてご自由に発 言していただきたい.

     木村龍治評議員 

    地球環境問題と多少関係するが,日本は気象災害が多い.昨年12月に,風による 羽越線の脱線事故があったが,20年程前にも兵庫県の余部鉄橋で同様な事故があっ た.冬の日本海側は,強風と地形的要因が重なった災害が多い.気象学会として 日本の気象災害に取り組む姿勢が欲しい.今冬の豪雪についても現象面や被害の 側面が強調されているが,気象災害への対応として,背景となる豪雪の頻度や過 去の事例等を正しく認識することが必要だ.

     廣田 

    羽越線の事故の例が出たが,風がご専門の竹内名誉会員からコメントをいただきたい.

     竹内 

    気象災害に対して,気象学会は物を言うべきだ.羽越線の事故では風工学会から 発言があった.気象学会も気象面の意見を持つべきだし,必要なら研究すべきで ある.このような現象を捉えるための観測と予測の技術について勉強すべきであ る.他にも黄砂や都市気候など特徴のある現象それぞれに対して物が言える十分 な人材が必要だ.

     古川 

    陳評議員が言及された“社会との接点”に関連して,最近では航空・鉄道事故調 査委員会や,最近のマンション問題での土木学会や建築学会などの活動がある. 羽越線事故の際に気象学会員がテレビに出ていたようだが,学会の活動ではなかっ た.災害事故調査は補償問題に影響する場合もあり,関係省庁との関係を考慮し つつ適切に行動する必要がある.加えて適切な学問的発言が要求される.社会と の接点を考える上で難しい問題だ.

     陳 介臣評議員 

    災害現場での資料収集は難しい.早く駆け付けるには予算措置も必要であり,学 会の基本方針を固めることが課題だ.また現場で迷惑にならないよう,他機関と の関係を調整する訓練も必要だ.加えて学会員が適切にコメントできることが重 要だ.

     新野 

    15年程前に,千葉県で竜巻の災害があった.夜7時頃に車のラジオで第一報を聞 き,翌朝一番に駆け付けたので現場が片付く前に調査できた.気象学会には災害 調査のための活動組織がない.例えば“気象災害委員会”のようなものを地方支 部も含めて組織すれば,すぐに動くことができ,気象学的な面と社会的な面との 両方から調査している印象を社会に持ってもらえる.こうしたアピールは非常に 重要だ.

     廣田 

    突発的な災害に対しては,政府に自然災害調査の予算がある.羽越線の事故では, 最初は人災の可能性が報道され,風についてはあまり注目されなかった.その後 人災は否定されて自然災害という結論になったが,どこまでが人災でどこからが 自然災害かという線引きが難しく,すぐに出て行けない面もある.ただ,気象学 会内で自然災害に関する議論が少ないのは事実だ.

     木村龍治評議員 

    国民にとって一番の関心事は“異常気象”だ.地球温暖化も,結局は異常気象発 生の元凶として見られている.普段の生活に直接結びつくのは異常気象だからだ.

     藤部 

    羽越線事故から1ヶ月後に開かれた風工学会の報告会で,関連報告が5件あり, フットワークの良さに驚かされた.

     斉藤 

    「行政減量・効率化有識者会議」第2回会合では,気象庁が定員削減対象機関と して名指しされた.海上保安庁等は,防災や安全に関わる要員は減らすべきでは ないという理由で削減対象から外れている.気象庁は防災機関と見做されていな いのではないか.「観測要員を大幅に削減するべきだ」というパブリックコメン トもあり,継続的な観測業務の重要性が認識されていない.ただ,気象庁にも反 省すべき点がある.かつて台風が近づくと気象庁や管区気象台からのテレビ中継 を行っていたが,最近は行わなくなってしまった.防災機関として国民の目に見 える形でメディアに出る機会が減ったことが,このような意見を生む原因のひと つになったのではないか.新野理事が“災害委員会”についての提案をされたが, 気象学会には,学術面で気象庁をサポートしていただくと共に,国民の生命・財 産を守るための目に見える防災活動の在り方を考えていただきたい.

     岩田 修評議員 

     今のご意見に大賛成だ.政府の削減対象リストでは,気象庁以外の部局は「○ ○省△△局◇◇課」という単位での掲載だが,気象庁は「気象庁」としか書かれ ていない.この違いは重要だ.予報や観測で重要と思われる要員が,いきなり削 減対象として提示されているのにはショックを受けた.現在気象業界の商業規模 は300億円に達する.更に成長が期待できる分野なのに,発信力が足りない.情 報を取りに来てもらうだけでなく,マスコミ等を利用した広範な対策もあって良 いと思う.これが広い意味の気象業界の活性化につながると考えている.

     廣田 

    竹内名誉会員にお伺いしたい.局地的な現象で住民に被害が出た事例について, 以前はずいぶん議論があったと記憶しているが,最近は活発ではない.このまま で良いのか.

     竹内 

    このままでは駄目だ.気象学会が防災の面で積極的に活動する必要がある.局地 的な現象にはいろいろなものがあり,気象庁も地元気象台を通じて災害調査をし ている.気象庁との関係を深めるために,日頃からの話し合いが必要だ.防災関 連の活動は,気象庁と連携して行うべきだ.

     藤部 

    気象災害が発生した場合,本庁や管区気象台が数日程度で速報を出しているが, あまり知られていない.宣伝不足だろう.

     竹内 

    気象庁は“商売下手”だ(笑).

     古川 

    肩書きが絡むと物が言いにくい面があるだろう.斉藤監事の定員削減のお話には 驚いた.気象庁が独立行政法人化されなかったのは,防災という役割があったか らだと理解していた.それを否定するような議論は問題だ.気象庁と根底部分で の連携の必要性を強く感じる.予報課長がテレビに出なくなったのは,予報の民 間解放と連動している.解放を契機に気象情報の提供の在り方が大きく変わった. 一方,地震の際は今でも気象庁の担当課長がテレビ会見している.このことも含 め気象庁と気象学会との協力について包括的に話し合う必要がある.

     山元 

    社会との設点は,教育も含めいろいろな場面がある.この評議員会のメンバーに, マスコミ関係者や気象データ利用者も入っておられれば良いと思う.施策を検討 する上では,違った観点から見ることが大切だ.現在の評議員の方は,研究畑の 方以外は気象畑のみという印象だ.機会があれば評議員の構成について議論願い たい.例えば電力気象は一大勢力であり,電力消費の面から真夏の東京の最高気 温が重大な関心事である.周辺分野も切実な問題を抱えていることを認識するこ とで,また違った方向に進むことができると思う.

     廣田 

    いろいろなお立場の方のご意見を伺うのが,評議員会の基本的な立場である.今 のご意見を今後の評議員会に反映させていきたい.



  4. 閉会の挨拶(廣田理事長)

      第1回に続いて貴重なご意見・ご提言を頂いた.それぞれの問題を整理し,今後 の気象学会の取り組みに反映させていきたい.
      なお,本日の議事録については,第1回と同様にみなさまに目を通して頂いた上 で,学会機関誌“天気”に掲載したい.




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