沖 理子

「周囲の意見を素直に聞いてみる」

沖 理子

宇宙航空研究開発機構
第一宇宙技術部門
地球観測研究センター センター長

Q. 学部・大学院での専門

気象・気候学 / 博士(理学・東京大学)

Q. 過去の研究履歴(略歴など)

NASA ゴッダード宇宙研究所にて熱帯降雨観測衛星降雨レーダ事前データ解析

宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構において、GPM、EarthCAREプロジェクト立ち上げを担当。全球降水マップ構築などデータ利用研究に従事

Q. 現在の専門分野(仕事の内容)

人工衛星による全球の環境観測が専門です。大学院時代の研究に始まり、数年前まで特に降水の全球観測を担当してきました。衛星の打上げ直前にNASDA(JAXAの前身)に入り、熱帯降雨観測衛星(TRMM)のデータ解析をしました。日本が開発した世界で初となった降雨レーダのデータは、まだ誰も見たことのない情報を含んでいて、魅力の塊でした。その後、その後継となるGPM((全球降水観測計画、NASAとの共同プロジェクト)の立ち上げを担当しました。関係の皆様との議論をまとめて、ミッションの目的や観測機器の性能、仕様の決定、積算などを行い、予算要求で役所との折衝も経験しました。国内だけでなく、対米交渉はもちろん、GPMは多国間協力なので、複数国との国際交渉もありました。衛星や観測機器の開発で欧米へのキャッチアップの時代から、科学利用に加えて衛星観測の社会課題への利活用が求められるようになってきたので、衛星打上げ後は主として省庁でのデータの利用普及活動に取り組みました。担当者も増えて、最近では国内省庁だけでなく、海外の気象水文機関や、更には民間にまで、GPMの成果物であるGSMaP(全球降水マップ)の利用が広がっています。現在は立場が変わり、GPMだけではなく複数の衛星プロジェクトの利用研究を見守る立場になりました。この分野に入る動機となった気候変動研究を考えると、降水だけをみているわけにもいかずに観測データの横断的、複合的な利用や、観測に加えて数値モデルシミュレーション関係者との協力などに取り組んでいます。

Q. この分野に入ったきっかけ

子供の頃、家にNational Geographicといった写真のきれいな科学系の雑誌が転がっていて、火山や地層、地質や地球科学方面に憧れていました。小学何年生のような雑誌で、氷河時代がくるという記事があり、気候が変わる可能性があると知って面白いと思い、毎年の天候をとても気にするようになりました。でも、まさか今の様に温暖化を気にする世の中になるとは当時は思ってもみませんでした。大学では地質学を専攻するつもりで進学したのですが、1,2年生のときに安成哲三先生の気象学の講義を聴講し、当時同時進行で日本でも異常気象が頻発するようなエルニーニョが発生していて、それを最新の研究論文も交えながら教えてくださって、心変わりをしました。先生の研究室で、10年から100年スケールの気候のデータ解析で卒論と修論をご指導いただきました。その後、博士課程の指導教官の住明正先生が熱帯降雨観測衛星の計画に関わられていて、その観測シミュレーションを行ったのが現在の仕事に就くきっかけです。周囲の誰もやっていない人工衛星による観測シミュレーションはとても楽しいテーマでした。

Q. 現在の研究(仕事)の魅力やおもしろさ

衛星やセンサの開発ではNASAやESAといった欧米の宇宙機関との協働や競争があること、データ利用ではアジア各国などとの協力があることで、世界市民の一員として世界の持続的発展に貢献できるという実感が持てる点が魅力だと感じています。また全球をカバーする衛星データは、まだまだ解析され尽くすことがない宝の山だと実感しています。そこから新しい知見、情報が得られるときの面白さは、若いときには自分自身の手でと思っていましたが、現在は皆さんに使っていただけて「これは!」という研究成果が生まれて人類の科学的知見が蓄積されているのをみて、大変うれしいことだと感激しています。加えて、宇宙開発の分野は世界情勢が如実に反映されると実感します。世界における日本の政治的、経済的、文化的な等々立ち位置を常に考えさせられます。科学的な研究だけでなく、学際的な取り組みや社会情勢に広く興味のある方にはお勧めいたします。

Q. これまで研究(仕事)をしていて辛かったこと(解決策なども)

割合早くに結婚したのに、長い間子供に恵まれませんでした。仕事をする上ではよかったものの、気がつけば30代後半になっていました。欲しいと思っていたわけでもないですが、もう子供はできないのかなと考えるとかなり落ち込みました。もう割り切って仕事に邁進しようと決心した途端、最初の子を授かりました。こればかりは自分でコントロールできないものだと思いました(そうでない人もいるでしょうが)。ですので、仕事のために子供は要らないだとか、いつまでは仕事をしてからその後に、とかも決めつけすぎないほうがいいように思います。また、子供が小さいときは病気も多くて仕事を頻繁に休まざるを得ず、その度に職場の同僚や後輩に業務を代わってもらうのを辛く感じていました。皆さんに育てていただいているのだ、と割り切るようにしていましたが、周囲の皆様にはさぞやご迷惑だったのではないかと思います。この場を借りて心より御礼申し上げたいと思います。

Q. 研究(仕事)以外の楽しみや趣味

クラシック音楽鑑賞、ピアノ演奏

Q. 仕事とプライベート(家庭など)のバランス

家族の重要行事は最優先で日程を確保する

Q. 進路選択を控えた大学生、大学院生へのメッセージ

大学院時代には、自分が研究者としてやっていけるのだろうかという自信のなさが気になり、同時に自分で何とかしないといけないと思い込み過ぎて、先生のアドバイスを素直に聞けなかったこともありました。何事もよい面と悪い面があるので一概には言えませんが、気張りすぎている人は、ちょっと周囲の意見を素直に聞いてみるのがいいように思います。仕事に就いてからは、私の場合、自分で研究成果をあげていくという道から、たまたま(上司が年の差があってすぐに定年になられて、早いうちからその役割もしなければならなかったので)プロジェクトマネージメントへと仕事の中身が変わったのですが、自分でも思いがけず面白さに出会えて未だに興味も尽きずに仕事ができて幸せだと感じています。したがって、こうでなければならないとか決めつけすぎないで、与えられた環境の中でやるべきことや面白さを前向きに見つけていけたらいいのではないでしょうか。言われたことをやらされている感じでは物事上手くいかないので、自分目線でやるべきことを見つけてください。よく言われることでしょうが、社会人になると実力だけでなく運が仕事人生を大きく左右します。上手くいかないとき、自分を責め過ぎないことです。皆さんがこれからの仕事人生を生き生きと前向きに過ごされるよう願っています。

Q. 民間経験・海外経験

1996年から1997年にかけてNASAのGSFCに研究員として滞在しました。NASAのTRMMプロジェクトの公募研究のやり方などを見聞きしました。個々の研究にはもちろん自由裁量がありますが、プロジェクト全体としてはしっかりマネージメントされている印象を受けました。それは日本に帰国して大いに参考にした点です。