早坂 忠裕

居敬窮理

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早坂 忠裕


東北大学大学院理学研究科・教授
JAXA地球観測研究センター・参与

Q. 学部・大学院での専門

大気物理学、大気放射学/ 理学博士(東北大学)

Q. 過去の研究履歴(略歴など)

東北大学(〜2001年3月):大学院生〜准教授 雲・エアロゾルの放射特性に関する研究
総合地球環境学研究所(2001年4月〜2008年6月):教授 大気中の物質循環に及ぼす人間活動の影響の解明
東北大学:(2008年7月〜):教授 雲・エアロゾルの変動と放射収支に関する研究
JAXA地球観測研究センター(EORC)(兼務、2020年4月〜):参与 衛星による地球観測研究の推進と将来の地球観測衛星のあり方の検討

Q. 現在の専門分野(仕事の内容)

最近は、研究室の大学院生やJAXA EORCの方々と一緒に、日射量の長期変動とその要因、北太平洋における雲と海洋の相互作用、地球のアルビードの変動とその要因、地球観測衛星を活用した研究、および地球観測衛星の将来あり方というようなことを考えています。

Q. この分野に入ったきっかけ

それは、すごく難しい質問です。大学で出会った同級生とお世話になった先生方の影響が大きいと思います。ある程度年齢を重ねると、人との出会いや偶然が重なって現在に至っていることを実感します。もちろん、若い時から強い意志を持って研究の世界に入った人もいることでしょう。でも、そうでない人も少なくないと思います。私の場合、40年ぐらい前の時代背景として、自分探しをしようなどとは誰も言わなかったし、自分が何に向いているのか何をしたいのか、なんてあまり考えなかったような気がします。その後、研究所や大学のマネージメントにも関わることもあり、自分が何に向いているのか、今でも良く分かりません。大学院に入るときに、博士課程にも進学してみたいということを指導教員の先生に話したところ、「それじゃ、5年間で良い仕事を一つしなさい」と言われたことを憶えています。その当時は、学生も先生も時間に余裕があったのと失敗を恐れずに何かにチャレンジすることが許される寛容の雰囲気があったような気がします。

Q. 現在の研究(仕事)の魅力やおもしろさ

今まで知らなかった知識を得ることや、他人の考え方を知ること。学生のころと今の自分では、同じ研究テーマでも面白さが全然違います。それは私自身の知識と経験が増えたからです。宮城県出身の彫刻家、佐藤忠良が書いた「美術を学ぶ人へ」という文章があります。その中に、次のようなことが書いてあります。「科学をもとに発達した科学技術は私たちの日常生活の環境を変えていきます。一方、芸術は科学技術とちがって環境を変えることはできませんが、環境に対する心を変えることはできます。」現在、科学が何の役に立つのかということが盛んに問われていますが、天文学や素粒子物理学など、いわゆる基礎科学は何の役に立つのかすぐには分かりません。でも、これらの新しい知識を得ることによって、芸術と同じように環境や自然に対する私たちの心、感じ方が変わるのではないでしょうか。そのことは私たちの人生や人間社会に大きな影響を及ぼし、後になって振り返ってみればとても役に立っていると言えるでしょう。科学に興味を持ち、学習や研究を通じて新しい世界を知ることはとても素敵なことだと思います。

Q. これまで研究(仕事)をしていて辛かったこと(解決策なども)

研究は、階段を上るように一歩一歩進みません。ほとんどの時間は進んでいないように感じられます。それが、ある時に「分かった」と思える瞬間があるのです(そう多くはありませんが)。残念ながら解決策のマニュアルのようなものはありません。私の場合は、本題と少し離れて自分の専門と少し違うことを勉強したり、誰かと話をすることが何か解決につながっていたのかもしれません。よく分かりません。人それぞれで違うと思います。

Q. 研究(仕事)以外の楽しみや趣味

ショッピング、サッカー観戦、大相撲観戦、音楽鑑賞、美術鑑賞、それに最近では和歌(短歌)が気になります(古今集とか百人一首とか)。1000年前の人たちは何を考えていたのだろう。

Q. 仕事とプライベート(家庭など)のバランス

基本的には、家ではほとんど仕事はしません。

Q. 進路選択を控えた大学生、大学院生へのメッセージ

最近は、若い人に限らず、身の程をわきまえるとか、世の中のルールを早く理解してゲームに勝つ、最小限の労力で目標を達成するということを考える人が多いように見えます。でも、そのような考え方は大変疑問に思います。今、最先端と思われることの多くは意外とすぐに衰退するものです。人材育成における大学の役割は、その時代の社会に最適化された人材を教育して送り出すことではなくて、確かな知識と想像力を持ち、卒業後20年、30年、さらにそれ以上にわたって社会に貢献できる人材を育成することだと思っています。東日本大震災や現在の新型コロナウイルス感染症を見ても分かるように、世の中は予想外のことが起こるのです。そのようなときでも社会で逞しく生きる、さらには社会に貢献できる人間は何かということを考えましょう。未来のことは分からないことだらけです。今だって世界中のことを全部知っている人はいません。(言い古されたことですけど)自分は何を知らないのかということを知ることが大事です。その上で、できるだけ知る努力をするとともに自分の想像力を駆使して進路を選択し、進んで行きましょう。より良い未来をつくるために。